旅行?


お母さんはポケットからちょっとクシャクシャになった紙を4枚、取り出した。


『特別ヨーロッパ招待旅行券』


「えっ?なんだそれ。俺も聞いてないけど」


お父さんが読んでいた新聞から顔をあげる。


「じっつはー、ウチの会社ヨーロッパ進出がきまったのよぉ!その視察班になったから、ついでに特別旅行つき!オトクじゃない?」


おおーっ!


日本中はあちこち行き来していたけど、外国なんて初じゃない!?


「……あれ、でもこれ4枚しかないけど」


奏太がお母さんの手元をのぞきこんでそう言った。


「あったりまえじゃないー!ふたりは学校よ、学校!学生は勉強!大人は優雅に楽しんでくっからさー」


えぇぇっ!?


「なっんで…!?」


私も行きたいよ、旅行!


「でも4枚しかないしー。お留守番、よろしくね〜」


ずるい…。


「ちょっ…まて、ふたり…って、ちょっ…」


奏太は変に慌てている。


「恵奈ちゃんって無意識にダイタンよねー…」


ため息のように言った奏太ママの一言に、またお父さんと奏太パパが頷いた。


「奏太大丈夫かしら…?」

「2週間って俺ふつうにヤバいと思うけど」

「もうこの機会にギューしてチューしてハッピーしちゃいなさい」


奏太と奏太ママの不思議な会話は理解できないけど。


奏太とふたりか…。


今までは誰かがだいたい家にいたから、こんな長い期間ふたりきりってなかなかなかったかも。


昔は奏太がご飯作ってくれたりしてたよね。


懐かしいなぁ。