「奏太ーっ」
奏太の部屋に入ると、今日もさっそく宿題を広げていた。
私はカーペットの上の小さい机に勉強道具を出していく。
「そういえばね、転校生が来るんだって」
「へぇ」
部屋ではだいたい、私がしゃべって奏太が適当に返事をする。
「楽しみだよね。男子だって」
「……男子」
ピクッ、と珍しく奏太が振り返った。
「どうしたの?」
「いや、なんでも」
参考書を広げて、奏太のルーズリーフを1枚もらう。
奏太は常に成績トップ。私もよく教えてもらうけど、説明がすっごくわかりやすいの。
対して私は中の下という危うい成績。
美琴も夏美も成績は上位だからおいてかれないように頑張っているんだけど、なかなか上がらなくて。
「奏太、ここ教えてー」
分厚い参考書を抱えて奏太の机に持っていく。
「どこ?」
「ここ」
奏太に寄って、問題を指差すとなぜか1歩離れられた。
「……?」
かまわずにまた奏太にくっつく。
「……なんなんだよ」
「へへ。だって奏太が逃げるんだもん」