大学3年の時 ゼミで 一緒になったタケル。
まもなく タケルに告白されて。
私達は 付き合うようになった。
東京で 生まれ育ったタケルは
垢抜けていて 遊び上手で。
私は すぐ タケルに 夢中になった。
何度か 恋愛は 経験してたけど。
タケルは 特別だった。
私が初めて 本気で 好きになった人。
私は タケルに 色々なことを 教えてもらった。
好きっていう 気持ち…
抱き締められる 温かさ…
ぬくもりの 幸せ…
不安 嫉妬 恐怖… それから 喪失感。
でもタケルには 高校時代からの 彼女がいた。
2人は 付き合ったり 離れたりを
繰り返して いたらしい。
私は タケルが 彼女と 別れたって 信じていたけど。
付き合って 1年が過ぎた頃。
突然 彼女が 現れて…
私の目の前から タケルを 連れ去った。
週明け 私は 宇佐美さんに ランチに誘われた。
「星野さん。この間は 無理にゴメンね。」
「いいえ。楽しかったから。大丈夫です。」
「ねぇ…星野さんって 野本さんと 知り合いだったの?」
やっぱり 宇佐美さんは 勘付いていた。
「実は… 元カレです。」
一瞬 躊躇したけど 私は 正直に言った。
「えーっ!そうだったの?ごめーん…?」
宇佐美さんは 驚いた後で
すごく 気まずそうな顔をした。
「大丈夫ですよ。気にしないで下さい。」
「でも… そんな偶然って あるんだねぇ…」
「はい…まさか あそこで 会うなんて。」
「いつ頃 付き合ってたの?」
「大学生の時です。4年になってすぐに 別れたから。昔のことです…会って 驚いたけど それだけだから。全然 平気です。」
私の 強がりに 宇佐美さんは 気付いている。
タケルを見た時 私の表情は 凍り付いた。
宇佐美さんは それを 見ていたから。
「でもさ…そんな偶然って ちょっと運命的だよね?」
悪戯っぽい笑顔で 私を見る 宇佐美さん。
「止めて下さい…私の中では 終わったことだから。」
「うん…ごめん。でも ちょっと ドラマチックで。憧れちゃうなぁ…」
「もう。他人事だと 思ってるでしょう?」
私は 宇佐美さんの言葉に 苦笑してしまう。
確かに ドラマチックだよなぁ…
まさか あんな風に 再会するなんて。
それから タケルは 頻繁に 電話を掛けてきた。
その日の出来事とか 仕事の愚痴とか。
他愛のない話しを するだけの電話。
どういう つもりなの…?
もう私は 恋人でもないのに。
「もしもし~?」
私の 呆れた声も 気にならないのか。
「あず美って 何の仕事してるの?」
「N商事って 言ったでしょ?」
「だからさ。そこで 何やってるの?」
「総務課。」
「プッ。総務って…笑」
「何が 可笑しいのよ?」
「ううん。あず美に ピッタリだなって 思って…」
「悪かったわね。どうせ私は 面白味のない 総務向きですよ。」
「いや、そうじゃなくてさ。あず美って 気配り上手で。平等に 回りが見えるだろ?総務には そういうの 必要だからさ。」
「何よ。今更 急に褒めて…」
「今更って。俺は あず美のこと ちゃんと 理解してたからね。」
「へぇ…それで 私は フラれても 大丈夫だから 別れたんだ?」
「えっ?俺は フッてないよ?あず美から 離れて行ったんじゃん?」
「あのねぇ。タケルが 雅代さんと 別れられないって 言ったからでしょ!」
「でも 俺。あず美とも 別れる気 なかったんだ…」
「はぁ!何言ってるの?黙って 二股に 我慢しろって?」
「二股とか 言うなよ。浮気みたいなもんだったのに。雅代が 煩く騒ぐから。納得するまで 様子みようと 思ってただけだよ?」
「だから それを二股って言うのよ。とにかく 私は 二股されても 平気でいられるほど 寛大じゃないんで。」
タケルは 何を考えて 私に 電話をしてくるのか。
私には タケルの真意が わからない。
知らず知らずに 電話を待ってしまう私。
ああ…また 私は 迷子になっている。
タケルとの 経緯を 話す私を
3人は それぞれの表情で 聞いていた。
「で?結局 あず美は よりを戻したいの?」
「はぁ…?まさか 今更。」
美香の言葉を 私は 強く遮ったけど。
「別にいいじゃん?その彼 今は フリーなんでしょう?」
さくらは 意外そうに 美香を見る。
「えーっ!だって あず美を 傷付けたのに。許すの?」
美香は ムキになって さくらに 言い返す。
「彼…タケル君?も まだ あず美に 未練があるから そうやって 電話してくるわけじゃない?思い切って もう一度 付き合ってみても いいと思うけどなぁ。」
「だから… 私は タケルと 付き合う気は ないって。」
私が 強く 言い切ると
「「「えーっ?」」」 と
3人は 声を揃えた。
「じゃ あず美は 何で 二股とか浮気が 気になるの?」
「うん、うん。タケル君のこと 何とも思ってないなら そんなこと どうでもいいじゃない?」
芙由子と美香に 言われて
私は 何となく 口ごもる。
「そうなんだけど。そこを はっきりさせないと 前に 進めないような気がして…」
私の言葉は 歯切れが悪くて。
言い訳にしか 聞こえなかった。
本当に 私は どうして そんなことに こだわるのだろう…
今更 二股でも 浮気でも どうでもいいのに。
解ったところで あの時の 傷は 消えないし。
さっさと 別の人と 恋をすれば いいだけのことなのに。
「もう一度 会えばいいじゃん?会って ちゃんと聞いてみなよ。タケル君に。」
さくらは 可愛い声で 大胆なことを言う。
「えっ。会ったら あず美は 引き返せないと思うよ?」
「そうだね。会うんなら 覚悟を決めてからの方が いいんじゃない?」
美香と芙由子に 言い当てられて。
確かに 私は タケルに会ったら 流されてしまう…
わかっているけど…
もう一度 会ってもいいと 思い始めている。
あの時 タケルの気持ちを よく聞かないで 逃げ出したから。
タケルから ちゃんと聞いて 前を向きたい…
違う… 私は 最近 タケルへ 気持ちが 戻り始めている。
タケルと話すことは やっぱり楽しくて…
「でもさ。その雅代って人は あず美を 浮気相手って 思っていたんじゃない?」
芙由子が ハッとすることを言う。
「えっ!どういうこと…?」
私は 軽く動揺してしまう。
もう 4年も 前のことなのに。
「だってさ。タケル君は 誰かと付き合っても 別れると 雅代に 戻ってたんでしょ?だから 雅代は タケル君にとって 最後の女なわけじゃない?」
芙由子は 慣れ慣れしく ” 雅代 ” と 呼び捨てにして言う。
「最後の女とか フウちゃん 演歌みたい。」
さくらは 笑いながら 茶化したけど。
私は 今まで そんな風に 考えたことは なかった。
タケルは 雅代に戻る?
タケルにとって 雅代は 特別な存在?
私は 電気が走ったみたいな 衝撃を受けて…
「そっか…そうだね…」
「んっ?あず美 どうしたの?」
「私 馬鹿みたい…私が タケルと雅代さんを 邪魔したんじゃない?」
「何か…いるよね?そういう カップル。くっ付いたり 離れたりして。目障りだよね?」
「そうそう。案外 モテる子だと 回りは 期待するじゃない?別れたと思って。でも 結局 よりを戻すんだよね。」
「腐れ縁っていうのよ。あず美 巻き込まれない方が いいよ。」
3人の言葉に 私は 曖昧に頷く。
自分目線で 考えていたことも
視点を変えると 違って見える…
私は 雅代を 恨んだけど。
恨まれるべきは 私なのかもしれない。
無口になった私を 置き去りにして
3人は 職場の話しで 盛り上がっている。
切り替えよう…私も。
もう タケルから 気持ちを 離そう。
私は 小さく ため息をついた。
それからも タケルからの電話は 続いた。
何か 特別なことを 話すわけでは ないのに。
私は タケルからの電話を 待っていた。
タケルが 思わせぶりなことを 言わないから
私は 気楽に 会話を 楽しんでいた。
合コンで 再会してから まもなく1ヵ月。
「あず美。夏休みは どっか行くの?」
「うーん。まだ決めてないけど。」
「温泉でも 行こうよ。」
「はぁ!?何で タケルと行くのよ?」
「たまには いいじゃん?息抜きに…」
「タケル おかしいんじゃない?何で 別れた彼氏と 息抜きするの?」
「じゃ、とりあえず メシでも食おうよ。近いうち?」
馬鹿げているけど…
温泉って 言われた後に ご飯に 誘われて
ご飯くらいなら いいかって 思ってしまった。
「今更 別れた彼女と ご飯食べても 仕方ないでしょう?」
それでも まだ私は 躊躇してしまう。
美香に 言われたように
私は タケルに会ったら また付き合ってしまう。
このまま 過去をうやむやにして
付き合うことは まだ 嫌だった。
「俺 別れた彼女って 思ってないから。」
「えっ?」
「あず美は 最近の合コンで 知り合って。気に入ったから アプローチしてるの。」
タケルの 勝手な言い分に 私は 笑ってしまう。
「クスッ。何それ?タケルって 昔から そういう所 あったよね?」
「そういう所って?」
「何でも 自分に 良いように 解釈するでしょ?」
「あー。俺 プラス思考だからな。」
「んっ?ちょっと 違うけど…」
駄目だ… タケルと 係わっていたら
私は また 好きになってしまう。
「とにかく。私は もうタケルと 会わないし。電話も しないでよ。」
急に 怒ったように 言う私は
ただの 情緒不安定…
その日から 3日間 タケルからの 電話がなくて。
私は タケルを 突っぱねたことを 後悔していた。
「ごめん。出張でさ。電話できなくて。心配した?」
4日目の夜 タケルの声を聞いて
ホッとする私は もう タケルに捉われていた。
「別に…タケルの電話 待ってるわけじゃないから。」
「この前 あず美に ” もう電話しないで ” って言われて。次の日から 電話できなかったから。あず美 気にしてるかなって 心配してたんだ。」
「気にするわけ ないでしょう。タケルは 彼氏じゃないんだから。」
「そうか?本当は 少し 気にしてただろ?正直に 言ってみ?」
「ちょっと。馬鹿にしてるの?」
「ハハッ。ゴメン、ゴメン。あず美の ” 寂しい… ” っていうの 聞きたかっただけ。」
「はぁ? だから。寂しくないし。」
「そうか?まぁ いいや。相変わらず 意地っ張りだな。」
私は 完全に タケルに 負けている…
本当は まだタケルが 好きだ。
認めてしまいそうな 自分を
精一杯 強がりで 抑えていたけど。
『別に 会っても いいんじゃない?』
そう言っていた さくらの声が
心の奥に リフレインしていて。
本当に 会っても いいのかな…?
ううん。私は タケルに 会いたいと 思っている。
4年振りに会った タケルは
大人っぽくなっていて。
あの頃よりも 素敵に見えたから…
金曜の夜 芙由子と2人で 食事をして。
「で?その後 タケル君とは どうなった?」
「どうもなってないよ。相変わらず 電話は来るけど。」
営業課の美香と 広報課のさくらは
残業が多くて 中々 予定が 合わないけど。
経理課の芙由子は 私と同じように
だいたい 定時で帰れるから。
私達は 時々 2人で ご飯を食べた。
「案外 電話 待ってるでしょう?あず美。」
「えっ…そうだね…正直に言うと そうかも。」
「もう一度 会ってみればいいじゃん?」
「うーん。その決断も できないんだよね…」
「あず美って そんなに 愚図だったっけ?」
「ちょっと。愚図とか 言わないでよ!」
「フフッ。でも 愚図じゃん?どう見ても…」
「これでも 結構 悩んでるんだから。」
「何を そんなに 悩むことがある?」
「私 タケルと別れた時 すごく傷付いて。辛かったの。もう あんな思いは したくないし。」
「へぇ…あず美 相当 好きだったんだね?タケル君のこと。」
「うん。すごく好きだったと思う。付き合った人の中で 一番 好きだったかも。」
「ねぇ。別れた時って どんな感じだったの?」
「突然 雅代さんに 待ち伏せされたの。大学の前で。」
「それで?」
「その時は 3人で カフェに行って… 」
「3人で 話したの?」
「うん。雅代さんが タケルに ” どっち選ぶの? ” みたいなこと 言って。タケルは 選べないって 言ったんだよね。確か…」
「雅代って メンタル強いね。」
「うん。私 何がなんだか わかんなくて。動転してて よく覚えてないけど。」
「それで あず美は ” じゃ 別れます ” って 言ったの?」
「ううん。その場では 何も言えなくて。その後 タケルと2人で 話したの。雅代さんのことも なんだか わからなかったし。」
「結局 タケル君と雅代って どういう関係なわけ?」
「中学と高校が 同じで。高校生の時に 付き合ってたらしい。でも 別々の大学に入って。お互いに 違う人と 付き合ったりしてたみたいで…」
「タケル君 あず美と 付き合いながら 雅代とも 会っていたの?」
「うん。何回か 会ったけど。タケル的には 付き合っているつもりは なかったって言うの。ただ 雅代さんは そう思ってなくて。また タケルは 自分の所に 戻ったって 思っていたんじゃないかな。」
「同じ中学って ほとんど 幼馴染み みたいなもんじゃない?家も 近所だったり。一緒に 成長した感じじゃない?複雑だよねぇ…」
「タケルは 地元の付き合いも あるから。ゆっくり 雅代さんを 納得させるって 言ったんだよね… でも 私 そういうの 許せなくて。だって おかしいでしょ?私と 付き合うつもりなら 雅代さんにも そう言えばいいじゃん?はっきり。もう タケルのこと 信じられなくて。」
「それで あず美から 別れたんだ。」
「そう。私 そんなの 耐えられないからって。私一人を 選べないなら もう 続けられないって言ったの。」
「タケル君は 納得したの?」
「したよ。" じゃ 仕方ないな ” って言って。それっきり お互いに 連絡も 取らなかったし。卒業まで 大学でも なるべく 会わないように 気を使って。」
私の言葉に 芙由子は 微妙な表情で 頷いた。
「それ タケル君は 意地になっていただけで。いずれ あず美は 戻って来るって 思っていたんじゃない?雅代みたいに…」
「はぁ?私は 雅代さんとは 違うのに…?」
「ねぇ あず美。雅代って どんな人?」
芙由子は 少し 悪戯っぽい顔で 私に聞く。
「綺麗な人だったよ。私より ずっと…」
「へぇ。危ない感じ?メンタル病んでるような?」
「全然。そんな風には 見えなかった。落ち着いてたし。関係ない所で 出会ったら 感じの良い人だと思う。」
「ふーん。意外。ヒステリックな人かと思った。」
「うん。思い込みが激しい 自己中とかね。でも そういう感じじゃ なかった…きっと すごく考えてから 私達に 会いに来たんだと思う。」
突然 雅代と出会った 私は
それだけで 取り乱してしまったけど。
多分 雅代は 色々な場面を 予想して
どんな対応も できるように 準備していた。
「私 あの時 雅代さんに 負けたって思った。顔も 行動力も タケルを思う気持ちも。」
「そんなこと ないんじゃない?だいたい そういうやり方が 正しいとは 思わないし。」
「うん。もし私だったら 雅代さんに 会うなんて 考えない。ただ タケルを問い詰めて。タケルに 結論を出させたと思う。」
「普通 そうするんじゃない?」
「だから 雅代さんは それくらい タケルを 強く思っていたんだよ。」
「そうかな…?ただのパフォーマンスだよ そんなの。” 私は それくらい あなたを思ってます ” って。実際 あず美は それで身を引いたわけじゃん?」
「でも 捨て身じゃないと あんなこと できないよ。私は 絶対 そこまでできないもん。誰のためでも。」
「私も できない。そんなことしてまで 繋ぎ留めても 惨めじゃん?」
芙由子も 私の言葉に 大きく頷いた。
「ねぇ フゥちゃん。もし 航君が 別の人と付き合っていたら どうする?」
私は 芙由子の恋人の 名前をだして 聞いてみる。
「どうするかなぁ…多分 別れるな。」
「その人と 争わない?」
「駄目。私 プライドが高いから。そんなこと 絶対無理。」
「だよねぇ…」
「そう考えると 雅代って すごいね。」
「でしょう?」
「私 そういう人とは 友達になれないな。1人の男に そこまで執着するとか。男なんて いっぱい いるのよ?」
「そう思うでしょ?でも 案外 いないんだよ?自分に合う人って…私 タケルと別れてから 誰とも 付き合ってないもん。」
「それは あず美が タケル君のことで 憶病になってるからじゃない?」
そうなのかなぁ…
私は もう 誰にも 裏切られたくないから
誰とも 付き合うことが できないのかなぁ。