「……分かってんだよ。どう頑張ってもアイツに勝てないことぐらい。
 でも、だからと言って簡単に諦められる訳がねぇーだろ。好きなんだから……」

「坂下君……」

「とにかく。あんたは、あんたの幸せだけを考えればいいんだよ!
 アイツにも言っておけ。もし椎名先生を幸せにしなかったらマジで許さねぇーからって」

坂下君は、そう言うと走って行ってしまった。
 あんたは、あんたの幸せだけ考えればいいって、それって認めようとしてくれてるの?

 簡単に諦められないから素直に認めることは出来ないけど……私の幸せを願ってくれようとしていた。
 坂下君の気持ちを知り複雑だったが、彼の気持ちに嬉しくなった……。

 そうだね……幸せにならないと坂下君に悪いわよね。
ありがとう……。
 そのためにも私も決意をしないといけない。自分の気持ちに。
 気持ちを改めてクリスマスの日を待った。

 そしてクリスマス当日。
私は、鬼龍院さんのお母様の指示された高級ホテルに
向かった。
 確かに言っていた通り……イルミネーションも完璧で凄く綺麗な夜景が一望出来た。
 曲もクリスマスに相応しい。
そしてご馳走……一流のコックが作った豪華なフルコースだった。

「食べようか?」

「はい……」

 お互いに緊張しながら食事を始めた。
VIPルームには、音楽の音だけが聴こえる。
 心臓がバクバクと高鳴り過ぎて味が分からない。

 何を話したらいいのだろうか?
せっかくのチャンスに……。
 恥ずかしそうに食べていると鬼龍院さんは、手を止めた。

「あの……今日は、上紗さんと一緒にクリスマスに過ごせることは、凄く嬉しく思っています。
 ですが……母の命令だからと言って無理だけはさせたくない」

えっ……?
 無理って……そんなつもりはないわよ?
私は……気持ちを決めてここに来たのに。

 もしかして仕方がなく来たと思ったのかしら。違うのに……。
 勘違いされていると思いズキッと胸が痛んだ。
だが鬼龍院さんは、ジッと真剣な目で私を見てきた。

「だが僕は、母の言う通りにしたくない。
 僕は、僕の意思で上紗さんを誘いたい。
だから……この後も一緒に過ごしてくれませんか?」