「「あ・え・い・う・え・お・あ・お」」
発声練習の声が教室内に響き渡り、その声を聞きながら、もっとはっきり、大きい声で!とアドバイスをしながら、今日も部活が始まる。
3年生の私たちはもう少しで部活を引退する。だからこそ部活での後悔は残したくないのだ。本当のことを言うと…部活以外の後悔も残したくはないけれど。
「…先輩?今日、元気ないですね?あっ、もしかして数学の小テスト悪かったんですか?先輩、数学バカですもんね?」
「…皇、確かに私の数学は悪いけど、そこまで酷くないからね!あと、そこまでバカじゃないし!」
「え〜、じゃあ、身長が小さいことに悩んでるんですか?いいじゃないですか身長小さいの女子的には小さい方がモテるらしいですよ?」
「…私の身長もバカにしたいのかな?今日は優しいから帰りに飲み物奢ってあげようと思ってたけど、やっぱ無しね。」
え〜!先輩のケチっていう皇の声が聞こえてくるが私は無視。このやり取りだけを見ると仲が悪いと思われるだろうか。…私が皇のことを好きということはバレていないだろうか。
私たちの部活が部内恋愛禁止という訳では無いが、部内恋愛をしてもし気まづくなったら嫌だな、良い作品も作れなくなってしまう。そんな思いから私が皇のことを好きだということは、まだ誰も知らないのだ。…本人も気づいていないだろうし。
言うことが出来たらどんなに楽になるだろうか、でも、口にしてしまえば今の関係は壊れてしまうかもしれない。そう思うとこの思いは中々口に出すことが出来ない。
本当は、私に話しかけてくれるだけでも嬉しいし、他の女子部員と楽しそうに話してるのを見るだけでモヤモヤしたりもしている。
でも、素直になれない私はむしろ皇には他の部員よりも厳しく当たっているかもしれない。だからこそ皇は私が好きでいることには気づかない。
…もう少しで部活も引退する。
引退したら、今みたいに部活で会うことも、学年が違うので学校で会うことさえも無くなるかもしれない。
そう思うとどんどん胸が苦しくなって辛くなる。
「…先輩、ほんとに大丈夫?体調悪いなら帰った方がいいんじゃない?」
君はそうやって優しく声をかけてくれる。その度に私は好きだなって思ってしまう。でもこの思いはまだ君には伝えられないんだ。せめて伝えるなら私が部活を引退してから、私たちの関係が先輩後輩ではなくなったら言わせて欲しい。
だから、今は………
「大丈夫、ほら引退公演の練習するから、みんな台本出して!」
素直になれない私でも、君を好きでいることを許してください。