「ちょ、夏夜!あんた、馬鹿!?!?」

「どうした?月乃顔が真っ赤だぞー。」

彼はいたずらっ子のようにケラケラ笑う。

出会った時の好青年の印象はどこへやら。

夏夜は案外いたずら好きな様だった。

「あーんーたのせいだっつぅーの!!!」

あくまでも小声で彼に全力で抗議する。

「いででっ」

彼の鼻を指先で軽くつねってやった。

やられっぱなしは悔しいからね!

その瞬間、運悪く彼の眼鏡が床に落下。

「わ、ご…ごめっ…!!!」

即刻彼から手を放し、思わず狼狽えた。

早く眼鏡を拾わないと…!!しかし、

あたしは動けない…月に魅了されたのだ。

「ねぇ。」

「ひゃいっ!!」

彼はあたしの手を包み込むように握る…。

少し低い体温が心地好く触れた。

私の大好きな…綺麗な月みたいな瞳。

大切な女の子との懐かしい記憶が遮る。

「………魅香ちゃん。」

「ひゃいっ!!」

…はっずかしぃ…今凄い変な声を…!!

彼の指先は私の簪の月に触れていた。

「え…何…?」

「なんでもない。ほら、保健室行こう。」

床に落ちた眼鏡を拾い上げた彼は、

どこか寂しそうに微笑んだ。