『ガチャーンッ!!』

音楽準備室の重たいドアが音をたてる。

「…遅れてきたのに随分乱暴だねぇ。
昔はあんなに淑やかだったのに…。」

サドは穏やかな声で殺気立つ私を諭す。

ピアノを弾いていた手を止めて、

胡散臭い笑みを浮かべている…。

「あんたが教師とかネタかと思った。」

「機嫌が悪いね、どうしたんだい?」

ピアノの椅子からゆっくり立ち上がり、

白く薄い手袋を外すとこちらに近づく。

「怖がらないで。君が良い子なら、
僕は君を痛めつけることはしないよ。」

「んぐぅっ!?」

穏やかな声と裏腹に手袋を外した指で、

容赦なく私の舌を掴み引っ張ったのだ。

そう、こいつはそういう人間…。

所謂サイコパスとされる極悪非道な奴。

「ははっ、偉いね…ちゃんとある。
僕のシルシ…可愛いねぇ、魅香。」

「んん"っ!!…触んな…気持ち悪い!」

私がキッと睨むとまたにんまりと笑う。

また手袋をつけて別の楽器に触れる…。

「君の唇、血液が付着していたけれど、
一体誰の血液?傷は無かったよねぇ?」

死んだ魚のように光の無い紫色の瞳。

深い闇を連想させる瞳が私は嫌いだ…。