「急に立ち止まってどうした?」

「…え?」

止まっていた時が動き出す感覚。

ぼーっと男性の背中を目で追っていた。

「なんでもない、人違いだった…」

手のひらがじんわりと汗ばんでる…。

私は拳を握りしめて微笑んだ。

「ふぅん?」

蛍はただ相槌を打って歩き出す。

嘘つきでごめん…。

「これから始業式を始めます。」

生徒が整列している静かな体育館。

校長の話も生徒指導部の先生の声も、

心臓の音が掻き消してしまう…。

「ここで新しい音楽の先生に、
挨拶をしていただきます。」

あぁ、嘘だ…幻だ…勘違いであれ。

逃げ出してしまいたかった…。

無情にも舞台上の人物と目が合う。

それはもう…言い訳できない程。

しっかり視線が絡んだのだ。

相手は私を見つけると穏やかに笑った。

「野苺学園の皆さん、こんにちは。
アルフィー・サド…と申します、
どうぞ、宜しくお願い致します。」

知ってる…嫌ってほど知ってる。

艶やかな金髪のボブヘアー。

窓から差し込む光に照らされ、

キラキラ輝いている…まるで王子様。

あぁ、周りの女の子の目がハートに…。

「ちっ…」