「で、それが本当だとして、お前はその、どうなるんだよ」
「別にどうもならないよ」
マコトの得意げな横顔がまた夕焼けに照らされる。
「体は痛くも痒くもないし。すげー嫌な気持ちが広がるだけで、その火の玉が全身に広がって薄ーくなってって、3分くらいでなくなるんだよ」
手を長く伸ばして大きく手をもみじのように広げ、エスパー、と笑った。
そんなわけない。心の痛みが、人から人へ触れて移動するなんて、あるわけない。
頭では分かっていた。けれどさっき見た光景が、脳裏にこびりついて離れない。
あの気持ち悪いくらいに輝いた、まるで何かから解放されたような、少年の表情。
「つらい思いを取り除いてほしい人が、すがるみたいにツイッターでDM送ってくるんだ。俺にしかできないことなんだ、ほっとけるわけないだろ」
マコトはすくっと立ち上がる。座ったまま何も言えない俺を、導くように手を差し出す。
「アキオ。世界平和の第一歩だと思わないか?」
マコトの背中の空がピンクに染まっている。こうなったらそろそろ日が落ちる。
俺は今でも繰り返し後悔する。
俺は口下手だから、いつも上手い言葉が出てこないけど、それでもあの時何かを口にすべきだった。
お前を救うために、あの時、言うべき言葉があったはずなんだ。