過保護な君の言うとおり



「優、大好き」



と静寂の部屋に玲ちゃんの薄い声がやけに響き


「優って佐久間にぴったりの名前だな」と微笑んだ息遣いが聞こえた。





 ふと、小さい手の感触が僕の頭に乗った。



サワサワと不器用な手つきで撫でられたかと思うと、玲ちゃんはもそもそと布団を抜け出した。




どこへ行くのだろうと薄目を開けると、ベランダに出ているようだった。




しばらくしてから、僕も布団を出て、小さい背中のあるベランダに行った。




 やっぱり玲ちゃんは何も羽織らず外に出ていて、小さい後ろ姿が余計に小さく見えた。



「風邪ひいちゃうよ」


 声をかけたがまだ眠いのか玲ちゃんはまだぼんやりしていた。そんな彼女が無性に愛おしく





「ああ、佐久間。……起こしたか?」


といつもより舌足らずな言い方に胸を撃ち抜かれた。



「佐久間って呼ぶんだ、優じゃなくて」


僕はクスッと笑い、持ってきた羽織を玲ちゃんの肩にかけた。


「もしかして、さっきの聞いてたのか」



玲ちゃんはかけた羽織を落としそうになるくらい驚いて、そして目をまん丸にさせて、僕を見返した。




「我慢してたご褒美だと思ってたんだけど」


「なんだよご褒美って」



好きな子が同じ布団で眠っているのに何もしなかったなんて、本当に僕は偉いっと心の中で褒めた。




 一月の風は突き刺すように寒かった。




早起きな彼女と、目が冴えて仕方ない僕は新たな始まりを迎えようとしている街を見下ろした。



一年が終わると新しい一年がまた始まる。何かが終わる時、また何かの始まりでもあるのだ。




「あ、優!」


玲ちゃんは僕の名前を呼んで、ベランダに乗り出し遠くを指さした。


「見て、夜明けだ。夜明けがきた」




 玲ちゃんの指の先には、朝日の頭がのぞいて、明るいところが紺色の深い闇を少しずつ押し出していく。




玲ちゃんはキラキラした目で無邪気に日の出を見ていた。



僕にはそんな彼女が眩しく、煌めいて見えた。



今の彼女には儚さと同じくらいのずっしりと腰を下ろした燈がある。




「夜明け、とても綺麗だよ、とてもあったかい、佐久間、どうしよう。……よくわからないけど、泣きそうだ」



玲ちゃんは興奮しながら僕を伺った。瞳は潤んでいた。



「今の私たちは、同じ景色を見れているだろうか」


「うん。僕たちは同じものを見て、同じように感動しているんだよ」



 僕と玲ちゃんは夜明けの静かなことの始まりに耳を澄ませ、じっと同じ方向を向いて、やがて上りきる太陽を見ていた。





──────fin.


最後まで読んでいただきありがとうごいます。


『過保護な君の言うとおり』完結致しました!

テーマは”夜明け”

過去に悲しい出来事や、辛い出来事があった玲は、夜明けを見ることで死に誘われるような感覚を持っていました。



しかし、そばで大切に自分を想ってくれる佐久間の存在が玲の心を溶かしていきます。



最後のシーンでは二人が同じ方向を向いて進み出す姿がかけていると良いなと思っております。


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それでは、また、どこかの物語でお会いしましょう

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