しかし、金融系元財閥のお嬢様がそうそう簡単にあきらめるようなことがあるのだろうか?
そう思っていた私の考えは、数日後に判明する。
「まぁ、貴方この病院にお勤めでしたの?」
そう、彼女と病院で再会したのだ。
しかも、そこは産婦人科の診察室前だった。
「察してくださいます? もう、貴方と雅貴さんが結婚することは無いって……」
ニコニコとお腹をさする様子に、妊娠をうかがわせるしぐさ。
しかし、あの忙しかった雅貴さんが彼女と会っている時間なんてあったのだろうか?
私は意外にも冷静に、この状況に立っていた。
「事実はしっかりと本人の口から聞きますのでご心配なく。担当医は、うちの義姉の様ですね」
そんな私の言葉に、今度は小宮山さんが少し顔色を悪くした。
「え? 桜木先生の親戚?」
そんな彼女に私は表情を変えずに、遅ればせながら自己紹介した。
「私、こちらで医院長秘書をしております。 桜木茉奈花と申します」
差し出した名刺で、確認している彼女に私はそのまま一度頭を下げて、通りざまにいった。
「義姉さんは優秀な産婦人科医ですので、安心ですね。お大事に……」
ここは産婦人科。
別に妊産婦だけが掛かるわけではない。
だから、本当に妊娠しているか定かではないし婦人科系の診察だってする。
まぁ、守秘義務があるから私が彼女について聞くことも無ければ、義姉さんがなにか話すこともないのだけれど。
少しは、これで落ち着いたらいいなという思いだった。
行動を起こすなら、すこし相手のことを調べたらいいのにと思ってしまうと、小さくため息をつきつつその場を離れたのだった。