そんな彼女の言葉で、私は最初にリコールで損益が出ると話が出たころに、雅貴さんに金融系の旧財閥のご令嬢との婚約が浮上していたニュースを見たことを思い出した。

 あぁ、やはりあれこれとイレギュラーなことがあってこの、償いみたいな関係から始まった婚約は無くなるのかなと思った時、雅貴さんが見たこともないほどにきつい眼差しで、女性を見ていることに気づいた。

 「小宮山さん。そのお話は頂いてすぐにお断りしたはずです。私にはすでに、愛する女性がいますので」

 そういって私に向けた顔は優しい笑みで、さっきまでの睨みつけるような冷たい目ではない。

 「まぁ、我が家の助けなく今回の事態を乗り切れれば、よろしいのではないかしら? 後々でやはりなどと言い出しても、遅いですよ?」

 言葉に余裕はありそうだが、表情には少し悔しそうな感じがにじんでいた。
 もしかしたら、前から雅貴さんのことを知っていたし、好意があったのかなとなんとなく察してしまった。

 そうしたら、ぽっと出の普通の容姿の私に悔しさも感じたのだろう。
 伯父は大きな病院を経営する医院長だし、あちこちに伝手はありそうだが、旧財閥なんていう昔からのお家柄には遠く及ばないだろう。
 それでも、そんなことより私を選んだらしい雅貴さんのその態度に、私はこれでいいのかなとモヤモヤ悩んでいた気持ちが少し晴れていくように感じた。

 「御心配には及びません。損益は、そんなにありませんから」

 にこやかに言い切る雅貴さんの様子に、その言葉は本当なのだと悟る。
 悔しそうな小宮山さんは、雅貴さんの言葉には返すことなく立ち去って行った。

 「茉奈花ちゃん。ごめんね。本当に、すぐに断っているし、両親もこの話を進める気はないから心配しないでね」