下敷きになった風間くんを労るのは至極当然のことだけど、

なんか、言い方に悪意があるような……っ。



「オレは平気だけど、黒鐘さんは大丈夫かな。唇切れたりとか……」


ハッとする。

綾川くんの視線がスライドしてくるのを感じて、とっさによそを向いた。



「わ、たしも、なんともないよ」


そうだ。

突然のことですぐには頭が回らなかったけど、唇がぶつかったのを見られたんだ。好きな人に。


唇同士が触れたわけじゃないけど、ズレたって言ったってほんの数センチだし、
みんなから見れば完全に事故キスの現場だった。


綾川くんに誤解されるの、すごいやだ……。

急に目頭が熱くなる。


でも、この状況で唇同士のキスじゃなかったことを急に説明し始めるのもヘンだし、

綾川くんにとっては「だから何?」って感じだろうし。



考えてたら、すぐキャパがいっぱいになって。


「風間くん、ほんと、ごめんね……っ」


みんなの視線から逃れるようにして教室を出た。