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あの木の向こうはどうなっているんだろう。
遠くに見える高い建物からはどんな景色が
見えるんだろう。
あの夕日はどこに沈んでいくんだろう。
誰からも忘れられてしまったような
古びた神社。
そのお社の屋根の下で、
遠くに見える空や建物を眺めながら
そんなことを考えた。
わたしは、猫だ。
気づいた時にはここにいて、
それからずっとこの神社に住み着いている。
ここは、
他の場所よりも少しだけ高い場所にあって
寂れた赤い鳥居の間から、周りの家や
遠くのビルを見ることができる。
わたしがここに住み着いてから
人が来たのは数える程しかない。
そのせいで、神社も鳥居もボロボロで
周りには草がこれでもかと生えている。
誰にも相手にされないのは
少し可哀想にも思うけど、
雨風がしのげて、景色を独り占めできる
この場所はわたしにとっては都合が良い。
ここでのんびりお昼寝して、
暇になれば、その辺の虫や鳥を追いかける。
お腹が空いたら、その辺のものを食べるか
人に頼めばいい。
神社を降りて、2つ角を曲がった先にある
瓦屋根のお家。
そこの庭で、大きな声で何回か鳴けば
「ネコちゃんまた来たのね。」と、
白髪のおばあちゃんが煮干しをもって
出てきてくれる。
そして、暗くなる前には神社に戻って
この景色をみながら毛づくろいをして
気づけば寝てる…
そんな毎日の繰り返し。
今日も、いつものように寝転がって
毛づくろいをする。
最近、良く考えるんだ。
わたしはずっとひとりぼっちなんだ、と。
おばあちゃんの家に行く途中、
家の覗く綺麗なグレーの毛をした猫と
目が合ってからだ。
あの猫は、人間に囲まれて可愛がられて
幸せな毎日を過ごしているんだろうか。
不自由なことは何もないけれど
そうやって誰かと一緒に過ごすのは
どんな感じなのか思うと同時に
その猫のことを羨ましく思っている
自分がいた。
きっと、わたしが死んでも誰も
気づいてくれないんだろうな…
――ずっと昔の朧気な記憶。
周りの猫たちはみんな白い毛に黒と茶色の
まだら模様。
なんの模様もない真っ白な身体なのは
わたしだけだった。
みんなで一斉に
お母さんにおっぱいを求めて群がった。
“わたしも…!わたしも飲みたい!”
わたしも周りに負けじと必死に
おっぱいに吸い付いた。
その時聞こえた、
“お前は俺たちと違う”
“よその猫がわたしたちのママのおっぱい
取らないで”
っていう声。
不安になってお母さんの顔を見たら
お母さんの困った顔。
“お母さん、お母さんそんな事ないよね?
わたしもお母さんの子だよね?”
お母さんは目を合わせてくれなかった。
“お母さん…?”
“お母さん!お母さん…!!”
何度呼んでも、その声は届かない。