ぼすん、 と間抜けな音がしたかと思うと、私は柔らかいものに包まれていた。
ここが天国か、などと思ったがそうではないようだ。
「死なせる訳にはいかねぇつったろ。残念だったな」
橘くんの勝ち誇ったような笑みが、近づけられた。
周りには、消防士らしき人、瑠璃さんもいる。
この様子からみると、私と橘くんが口論してる間に瑠璃さんが通報した、というところか。
「天藍姉!」
「……遥斗」
大きな瞳一杯に涙をため、震えた声で怒鳴る。
「バカバカバカ!!天藍姉のバカ!」
遥斗の大粒の涙が私の鼻先に落ちる。
それは温かくて、次第に冷めていった。
「交通事故に遭った上、自殺未遂なんて心配ばっかかけんな!馬鹿野郎!」
「でも私には、もう生きる意味がないのよ、はやく、あの子のところへ逝かせて……!」
私も、目が潤んできて遥斗の姿をまともに捉えられない。
「ざっけんな!俺がいる!瑠璃兄だって、琥珀兄だって、母さんだって!俺には天藍姉が必要なんだよ!」
「また、そんなこと言って」
この世の中、正論は綺麗事という泥なのだ。
遥斗や瑠璃さんはともかく、残りの2人はどちらかというと私に消えてほしいのではないか。
母に至ってはこの場に来てすらいないではないか、きっとどこぞの男とイチャイチャしているのだろう。
「いいか、よく聞けよ!」
涙ながらに遥斗のスマホ画面を突きつけてきた。
その画面に表示されていたのは、紛れもなく、あの、太陽の千稲ちゃん、だった。
驚いている間もなく、遥斗の小さな指が伸びてきて、画面をタップした。
どうやら、動画のようだ。