琥珀は、o型のrh nullという特殊な血液型で、確率は1億数千万人に1人。

61種類あるRh抗原を一つも持たない型
誰にでも輸血できる血を持っているのだ。

それ故、この血液型は黄金の血、と呼ばれる。

ただ、この血にも欠点があり、誰にでも輸血できる代わりに、黄金の血を持つ者が輸血されるときは、同じ血液型でないと輸血できないのだ。

琥珀は、彼の父親が同じ血液型なので心配はいらない。

全く、凄い人間だ、琥珀は。

皮肉ではなく、本心である。

整った外見で人を魅了し。

回転の速い頭脳で勉強も学年トップ争いの常連メンバーとなり。

運動神経ももちろん抜群。

身長も体格も申し分無い。

生徒会長は確実だと謳われる。

一時期、兄として弟に負けるのは屈辱的で、悔しくて何でも必死で取り組み、琥珀に勝負を挑んでは負けるという日々をすごしていた。

それで、血反吐を吐くほどの根詰めた勉強をして、僕はギリギリのラインで怜悧高校に合格した。

でも、琥珀は器用で、だからこそなのか向上心がなく、高校もそこそこの偏差値のところに入学した。

担任に確実に怜悧高校に入れますと太鼓判を押されていたにも関わらず。

担任は落胆しただろうな、と思う。

逆に僕は絶対に無理だと言われていた。

僕は、必要とされていない。

必要とされるのは優秀な人材のみ。

琥珀さえいれば、それでいいのだ。

もう、諦めがついた、勝てなくて当然だと。

僕は、橘瑠璃では到底生き延びれない生き物なのだ。

手術中のランプはまだ赤く叫んでいる。

早く、早く静かになってくれ。

そう懇願していると、血の気が引き、足元の覚束ない、ゾンビのような琥珀が現れた。

琥珀はそのまま、大きな身を投げ出すように僕の横に座った。

頼りない椅子が揺れる。

「琥珀……血、どのくらい分けたんだ」

「知らね……」

太くて血管の浮き出ている片腕で目元を覆い、消え入りそうな声で返答した。

「お前さぁ、……俺の血があるってのに……なんで、聞き入れずに、行くんだよ……アホ」

「ごめん、そのときは僕も焦っててさ」

こいつのことだから、必要なだけ採ってくださいとでも言ったのだろう。

疲労もあればこのくらい体力を消耗してもおかしくはない。

「現場……急ブレーキのタイヤ痕がなかった……もしかすとると……わざと轢いたのかも……」

こんな状態であるのに、報告してくれる琥珀に胸か締め付けられる。

「そうか……ありがとう、ゆっくり休めよ」

「は……何だよ、急に……」