一瞬パニックになりかけたが、すぐに思考を再開する。
「琥珀!状況確認!天藍ちゃんは俺が診る!」
琥珀は天藍ちゃんから離れ、自身のスマホで闇を切り裂き、事実へのピース集めを開始した。
「天藍ちゃん!天藍ちゃん!?聞こえる!?返事して!?」
……意識なし。
「意識なし、ですね」
「え?」
「私、少しだけ医学をかじっているので応急処置くらいはできます。あなたは救急車を呼んでください」
金縁の眼鏡が僕のスマホのライトで反射した。
それがえもいわせないような威圧を放っていたので僕はそこを離れ、温かくなったスマホを耳に当て、出た人に応答する。
その間に、水城さんは慣れた手付きで天藍ちゃんの状態を確認し、小声で呟いた。
僅かながら脈あり。
主な出血は背中から。
何かに引っかかったのでしょう。
そして、天藍さんの体型、この血の量だと……。
失血死するかもしれない。
「血液型はっ!?」
琥珀は首を横に振ったが、一番知っている可能性の高い水城さんが黙ったままだ。
おそらく知らないのであろう。
この状況での最善の行動を考えろ。
「リスクはあるが、救急車に来てもらうより断然早いからこの子は俺が運ぶ。琥珀は遥斗でも誰でもいいから血液型を確認してくれ」
「待てよ、別に血液型わからなくても……」
そして壊れそうな華奢な体を割れ物を扱うように抱えた。
「ダメです、もし頭にも損傷があれば……!」
「救急車を待てって言うんですか?どのみちこの狭い道路なら、時間がかかります」
「ですが動かせば……せめてストレッチャーだけでも持ってくるべきです」
「……ここで待っているより、運んだほうが助かる確率が高いと俺は判断します。もし、俺のせいで状態が悪化すれば、どんな形であろうと医療に関わる一人の人間として、責任はとる覚悟はあります。そういうわけなので」
「お待ちください、橘さん……!」
ぬるりとした血液の感触が俺に罪の意識を誘い、足が竦む。
あの時、僕があの通りを見ておけば、こんなことには――。
歯を食いしばってアスファルトの地面に足を打ち付ける。
走れ、動け、俺の足。