病院までは、まだ距離があるはずなのに。
よろよろと脇腹を押さえて歩いていると、ふと、車一台分が限度の幅の道を見つけた。
そこの道に、2人手を繋ぐ小さな男の子が歩いて行っているのが見え、歩みを止める。
「……ずっと隣にいてよ。手、離さないでよ」
怯えたようなか細い声がエコーがかかった状態で響くと、2人の男の子はふ、と霧のように消えた。
……ごめん、もう、無理なんだ。
その時、ポケットが震え、スマホを取り出すと、琥珀から電話がかかってきていた。
「おい、っ、あいつ病院に着いてねえって、そんなこと、あり得るか」
電話越しに琥珀の荒い息遣いがわかったが、もう病院に着いたのか、ということをぼんやりと思っただけだった。
「僕、まだそっち行ってな……」
「お前がどこか聞いてるんじゃねえっ。あり得るかってんだっ」
「んー、わかんないから、じゃあ僕は天藍ちゃんの家に行ってみるね」
「あ、おい……!」
琥珀にもう、話してほしくなくて、スマホの画面を即座にタップする。
"俺は、お前とは違う生き物なんだ"
そうだよ、僕は、要らない生き物なんだ。
***
明るいチャイムの奥から、AIのような無機質な声が抜けた。
「はい、如月ですが。昼間の……チナリ様ですね。今、天藍さんは外出中でございます」
「あ、それなんですが、実は天藍ちゃんはさっきまで僕達といて、それから、行方不明なんです。でも、お家には帰られてないみたいですね……」
「そうですね。心当たりはないのですか」
「如月総合病院に向かった筈なんですが、そこにいなくて。もう一回探してみます。ありがとうございました」
僕がそこを離れようと別れの挨拶をすると、ミズキさんが、今までの態度に似合わない、感情のこもった声を出した。
「お待ちくださいっ。私も参りますっ」