「天藍ちゃん!」

そう叫んだときには、もう彼女は駆け出していた。

僕の声は届かない。

千稲……天藍ちゃんが入院中のとき、遥斗と一緒に見舞いに来ていた女の子か。

あの子が、危篤……つまり、あの子も何か持病を持っていたのか?

そうすれば、遥斗や天藍ちゃんとの繋がりも少し鮮明になる。

「瑠璃、追うぞ」

珍しく琥珀が情熱的である、これが愛の力なのか。

「どしたの?珍しく熱いじゃん」

僕は嬉しくなってからかってみたが、琥珀は照れるどころか余計にヒートアップした。

「馬鹿野郎、あいつ心臓病持ってんだぞっ」

「あ……」

琥珀に怒鳴られてから事態の危うさに気づき、言葉が消えた。

「あんな全力疾走していったらぶっ壊れるに決まってっだろ。お前なら分かるだろうが」

僕の鈍さに苛立ったのか、一睨みしてから琥珀は畳を蹴り、僕はそれを慌てて追う。

「待て、二手に別れよう、僕は左、お前は右だ」

「んなもんとっくにわかってる」

その返事を聞き、僕は如月総合病院へと走った。

硬いアスファルトが僕の足に負担をかけ、普段動かす機会の少ない肺もすぐに破裂しそうになる。

「はあ、はあ、っ」

……こんなにすぐ、息がきれるなんて。

左脇腹の辺りがぎりぎりと絞られるように痛み、遂に走りが途絶えてしまった。