「天藍ちゃん!」

呼び止める声なんて気にするものか。

制服で全力疾走する女子高生への奇異の視線なんて気にするものか。
 
大方、そんなことだろうとは思っていた。

遥斗取り乱しようでわかる。

膝がスカートを巻き込み、動きを妨げ、学校指定の革靴がアスファルトの僅かな隙間に引っかかり、私が進むのを故意に止めようとしているように感じる。

やめて、私を止めないで。

円滑に歯車が回ってよ。

前髪が遮断する光を取り入れようと、ヘアピンで止め、額を露わにする。

お願い、今だけは私の心臓、狂わないで。

正常に脈動して、酸素というエネルギーを全身に巡らせて。

嫌な想像ばかり膨らみ、目尻に涙が生まれては横に流れていく。

大丈夫、今のペースなら、大丈夫。

根拠もないのに、そんな慰め方しかできない。

それに対して、いつも明るく私を励ましてくれた、あの人。

心の中心に立っていてくれた、あの人。

笑った姿に葉が舞い、花が歌い、鳥が鳴く、太陽だったあの人。

あの陽光に、遥斗も魅了された。

太陽がなければ、全ての生命体は生きられない。

今、太陽を失うかどうかの最中、つまり生きるか死ぬか。

もう辺りは薄暗くなり、鮮やかな橙を放っていた夕日も殆ど沈んでいる。

だけどまだ、あの人は守れる場所にいる。

私のこの頼りない手だけど、守らなければならない。

早く、もっと早く動いて、私の足。

私達の太陽を守るために。

そして、私の――。

「っん、はっ、っう、はっ」

嗚咽が漏れ、足が生理的に止まってしまう。

汗か涙か分からない雫が足元に落ちる。

……だめ。

止まっちゃだめ。

収まって、私の心臓。

激しく動かないで、大人しくてって言ったじゃない。

潰れても、壊れてもいいから、早く、酸素を送って。

鼓動が骨に響く。

目の前が白んできた。

これじゃどっちがどっちかわからない。

病院にたどり着けない。

私からあの人を奪わないで。

自分で守るから、ねえ、お願い。

胸が破られそうに心臓が動き、頭も割れそうだ。

目の前の靄が晴れてきて、少しずつ現在地が認識できるようになってきた。

足元には、私の涙で汚れた、白線。

もしかして、ここ、横断歩道――。

眩い光線が私の視界を破壊し、全身に衝撃が走って、それからは。

何もわからない。