パキ、と軽い音がしてシャー芯が折れる。
畳の独特な匂いが落ち着かない。
そろそろ足の感覚がなくなってきたし、空も赤く染まり始めたので、帰りたい。
私のシャーペンが汚す紙は、瑠璃さん自作の問題集。
瑠璃さんは1人ニコニコして、何故か付き合わされている橘くんと私をただ、眺めているだけ。
その余裕な様子に苛立ち、端正な顔立ちにシャーペンで傷をつけてやろうかと思った。
あのあと、橘くんの家に連れ込まれて、この部屋で正座させられたのだ。
「はいはい、学生諸君」
「お前も学生じゃねぇか」
ボソ、とした橘くんの突っ込みは無視された。
「学校をサボっちゃいけないよ?……という訳で勉強するよ〜!教科書出して」
「持ってない」
「ええ〜〜!!」
瑠璃さんが机をバンと叩いて、私の前の湯呑が揺れる。
……うるさい……。
「荷物全部置いてきた」
「なーにやってんだよ、琥珀」
「何で俺だけなんだよ」
瑠璃さんは大げさでわざとらしいため息をつき、私達に何も断らず部屋を抜け出したあと、ものすごい足音をたてて帰ってきた。
机に置かれたのは、橘くんの頭より高い、紙の山。
「はい!これ、僕が作ってた問題集!これ二人で全部解き終わるまで帰っちゃダメだよ」
「えっ」
私が変な声を漏らすと瑠璃さんは悪戯っぽく笑う。
「ふふ、これでもう学校サボれないでしょ?」
……鬼畜!
もう少しで、渡されたシャーペンの生涯を終らせるところだった。
意地悪な瑠璃さんに悶々としている私の隣では、もう橘くんが問題集に取り掛かっている。
そんな涼しい顔でこなされると、逃げるに逃げれないではないか。
乗り気ではないが、問題集に手をのばしシャー芯を削り始めた。
で、今に至るというわけだ。
パキ、と軽い音がして、シャー芯が折れた。
何本目かのスペアを入れ直し、苦手な英語を解いていく。
文系は苦手だ。
答えの幅が広く、特に国語の文章題なんかには本当に存在意義が見いだせない。
登場人物の心情を文章の狭間から読み取れだなんて世の中も高度なことを求めるものだ。
その点、理系は得意だ。
答えが決まっている。
どうやら私も橘くんもその傾向にあるようで、文系の問題集に突入した途端、一気にペースダウンした。
「ふっふー、二人とも文系の教科が苦手みたいだねー」
ニヤニヤと優越感に浸っている様子の瑠璃さんを下から睨みつける。
でも、普段から橘くんで慣れているのか少しもニヤけ顔が変わらない。
「文系は、自由じゃないか。ある程度の範囲内で、だけどね。その範囲さえ覚えれば、あとは簡単だよ。例えば……あ、教科書ないんだった」
教科書から例を出そうとしたようだが、ないんだから仕方がない。