巻きつけた黒髪をくりんと回してはらりと放す。

少し愉しんでいるようにも見えて、奇妙さが増した。

「ていうか、何で千稲ちゃんと年齢違うのに、クローンだって疑えたの?同時期に生まれたなら、同年代を疑うでしょ?だから麗華も、一度は疑われた。疑念の先を私に向けてもよかったんだけど、ちょっと厳しそうだったから止めた」

「成長遅延剤、だろ」

親父が自殺をする直前、クローンのことについて話すとき恋藍のクローンに『成長促進剤』を投与すれば移植が間に合うのでは、という話をしていた。

促成栽培があれば、抑制栽培があるように、成長促進剤があれば遅延剤もあるのではないかと予想した。

「正解よ。成長促進剤も、成長遅延剤も、人間用のものを高田華斗の父が開発したらしいわ。つまり、麗華の祖父ね」

それを、小亜束千稲に投与したのか、約8年間もの間。

如月はコクリと頷いた。

勝手な都合で産み出された上に、本当は同年齢の筈なのに隠蔽工作のためだけに時を止められていただなんて、彼女が不憫でならない。

「よくそれだけで千稲ちゃんに辿り着いたわね」

「勿論、それだけじゃねぇよ。お前だよ、容疑を決定的にしたのは」

「私……?」

訝るように眉をひそめると、瞬間、何か衝撃でもくらったかのように目を見開いた。

「わかったわ、あのときね。千稲ちゃんが亡くなったとき」

あのときの如月の動揺っぷりは尋常では無かった。

いくら親しい友人が死んだとて、自殺までするか。

今まで接してきて、如月にはそのようなヒステリックな傾向は見られない、つまり、別に小亜束千稲に固執する理由がある。

そこがキーポイントだった。

「しいて言えば、突然自分はゲノム編集ベビーではないか、と言い張ったのもおかしいと思った。明らかに俺の追及から逃れようとしていたし、クローンを知らなくてゲノム編集を知っているのも変だ。俺がクローンだと告げたときはお前はクローンが何か知らないような反応だったからな。まあ、クローンは中学理科で習うから、知らない筈は無いとも思ったが」

「なるほどね」

クスリと馬鹿にするように嘲笑ったが、その目には深い傷が揺らめいていた。

コイツ、まだ痩我慢して取り繕ってやがる。

諦めの悪さに呆れつつ、どこから攻めていこうかと論理を組み立てる。

「あー……それともう一つあったな。お前が俺らの母親、橘恋藍の顔を完全に知っていたことだ」