俺の言葉に振り向いた彼女は目を丸くすると、全て理解したかのように妖艶に微笑んだ。

しゃがみこんで紙をとっかえひっかえしていた動きを止めてそれを放り出す。

白が、目に痛かった。

「……あーあ、完璧だと思ったのに。橘くんのせいで台無しよ」

くしゃり、と紙が彼女の足の下敷きになった。

「ねえ、今夜の空、見た?」

「……見た。綺麗だった」

「そうね。黒と白が、混ざってないものね。花火大会の日も、こんな綺麗な夜空だった。結局、純色のままが一番綺麗」

まるで俺と如月が交じったのが間違いで、汚いかのようないい草。

彫刻のように美しい笑みは哀しみを纏い、俺の胸を深く突いた。

「……動機は」








「小亜束千稲か?」





空気が揺らいだ。

 
その自信満々で高貴な笑顔が歪む。


俺のこの行動が彼女を追い詰めるなんてことはわかっている。

それでも、俺がここで彼女の痩我慢を止めないと、彼女はいずれ、親父の二の舞になる、だから。

今は苦しくても、耐えないと。

俺は、彼女の無言を肯定と受け取った。




「こあたばちいな、入れ替えると」 









 

    「たちばなこあい」


 



 






俺と彼女の声が綺麗にハモる。


今までの凸凹っぷりが、嘘のように。

 
交錯してすれ違っていた白と黒が交わって、灰色になるように。




 




「小亜束千稲はtsー1、つまり橘恋藍のクローンだ」

  




   

「そしてお前は、それを知っていた。ずっと前から」


「そうよ。アナグラム好きは遺伝かしらね」


彼女は制服のポケットからヘアピンを出し、後ろ髪を短くしても決して切ろうとはしなかった長い前髪を左右で止めた。

顔の造詣が顕になり、今まで以上に美しく見える。

「ほら、似てるでしょ?千稲ちゃんと。恋藍のことがバレてしまったときは焦ったけど、油断せずに切らなかったことが功を奏したわ」

艶めく黒髪を一房指に巻きつけ、それで頬を撫でる。

「何故、いつ、彼女がクローンだと?」

「父親が亡くなる直前に聞いたのよ。母と何か揉めてて、そのときに聞き取った単語が『ローン』だった。父に、それは何かって尋ねたら気が動転していたのか、全部、話したわよ」