正直、一人にして欲しくなかった。

一人で受け止めきれるか、不安で足が硬直する。

ふと、瑠璃のウインクを思い出してふっと息を漏らす。

あいつ、無理しやがったな。

あんなキャラじゃないだろうに、俺を逃がすためにあんな気障な仕草をしたのだろう。   

とはいえ、高田の機転には非常に助かった。

俺の目的地はもうすぐだったから。
   
暫く歩き、見覚えがあるどころの話ではない、見慣れすぎて吐き気さえ感じる日本邸宅の前に立つ。

ポン

鹿威しの音が夜空を突き抜けていって、俺はそこに足を踏み入れた。

家の中には、濃厚な静寂と闇が渦巻いていた。

頭の中で些細な出来事が絡まり、時には解け、また集結して形を成す。

嫌な形だ。

ふる、と頭を振った。

俺が迷わず、感情を無くして足を進めるとギシギシと歴史の重みが詰まった床が軋む。

感情を消し去った筈の俺の心からそんな音が聞こえてくるようだった。

目的の部屋に到着し、ドアノブに手をかけて深呼吸をする。

ここは、親父の部屋。

秘密と罪と苦しみが充満する、負の部屋。

そんな空間に、"あの人"がいないことを願う。

でも高田邸にいたときに、それはほぼ証明されている。

"あの人"は、ここにいるのだと。

そして、その目的も、今までの不審な挙動も、これでほぼ説明がつくのだ。

これほどまでに、完成させたくないジグソーパズルが、この世に存在するだろうか。

俺は覚悟を決めたのか、それとも逃げ道を見出そうとしたのか、自身の中で落ち着いていないまま、ドアを開けた。
 
暗い。
 
弱気になれば襲われて消えてしまうだろう、圧倒的、闇。

俺の黒。

何も見えないけど、でも……。






「やっぱり、お前だったんだな」



震える拳を握りしめ、もう片方の手で壁を弄り、突起を見つけて出してカチリと押した。


目が眩む。

 
それは電気の影響か、目の前の人の影響か。
 






「如月」