星が煌めく夜空の下、息を切らして3人並んで走る。

不規則な足音が虚空を何処までも貫いていくように木霊した。

「どこに行くんですか、それだけでも教えてください」

女の子なのに僕らのスピードについて来れる高田さんは、何かスポーツをやっているのだろうか。

いきなり叔父があのようになって、混乱と衝撃に揉まれて整理が追いついていないだろうに、よくわからないまま走らせて申し訳ない。

「……僕にもわかんない。ごめんね」

「いえ……」

深夜の街はあまりにも静かで、寒くて、宇宙のように綺麗だった。

月や星、街灯の弱々しい光に縋って見つけていかないと静寂に飲み込まれそうな、そんな夜。

琥珀が何を考えていて、どうしたいのか見当もつかないけれど、琥珀の推理や勘は鋭いから信用できる。 

そうして走っているうちに、僕はある予感がして、足を緩めてしまった。

この道って、もしかして……。

そして、過る推理。

確証は得られてないし、裏付ける証拠もない。

僕の突飛な空想。

到底、信じられないような。

でも、その推理を組み立ていけば、どんどんピースがピタリと嵌ってきてしまって、止めようにも止められなくなってしまった。

どうしよう、このままでは最悪なジグゾーパズルが完成してしまう。

ぐっ 

右腕を引かれ、足も思考も止まった。

ある意味ありがたかった。

だがそれも、次の瞬間吹き飛んでしまう。

「君達、未成年だよね?こんな時間に何してるの?」

後ろを振り向くと白い光が飛び込んできて目が眩んだ。

どうやらライトを向けられていたらしい。

警官の制服を纏った中年の男が僕らを舐め回すように見て、汚物を目にしたかのように瞳を細める。

まずい――そう思った次の瞬間。

「たっ、助けてください!」

高田さんが甲高い声で悲痛にそう叫んだ。

「弟が、誘拐されたんです!」
 
「なんだって?犯人は?」
 
「さっきからずっと追いかけてて……ね、瑠璃お兄ちゃん」

同意を求めたその視線はえもいわれぬような圧があり、仲間の筈の僕がたじろいだ。

「……そうなんです!こっちです、来てください!」

僕らは琥珀が進もうとしていた道と別の道へと警官を誘導した。

警官は「誘拐」というパワーワードで動揺している。

だから、今のうちに。

琥珀だけでもいいから、行って。

僕は警官の背中を押しながら、迷いの見える琥珀にウインクを飛ばした。

気障ったらしくて、僕っぽくなくて後で一人、恥ずかしくなってしまった。