「黙れ!」

化けの皮が剥がれるとは正にこのことのような豹変ぶりに場が凍りついた。

電気が走っているように指先がじんじんと痺れる。

「わかったところでもう無駄なんだよ。来たらぶっ殺してやるからな」

「れ、令くん……?」

涙目で震え、叱られた子供のように僕の腕に縋ってきた高田さんの肩を思わず抱き寄せる。

僕は不快さに耐えきれず強く眉間に皺を寄せた。

「お前らなら気づくかもと危惧していたが、少し油断していたようだな」

「お前が高田を脅したのか?」

琥珀が淡々と尋ねる。

「……ぁあ、そうだ。高田華斗を殺したのも僕だ。あいつは赦してはならないからな」

電波が本当に悪くなったように若干タイムラグがあってから、憎しみに澱んだ声が流れた。

琥珀は美しい顔の造形を僅かに歪める。

「何故だ?」

「何故って、そんなのとっくのとうにわかっているんだろ?僕がアメリカの高田華斗の研究所にいた頃、琥珀くん、君の問診をしたって。赦せなかったんだよ、命を実験に使うなんて……!」

「高田を脅したのは?」

僕は琥珀が何をしたいのかも、水樹令がどこにいるのかも全く見当がついていない。

ただ、凝りのような違和感が胸につっかえて居心地悪い。

高田さんの頭を撫でながら途轍もない厭わしさと違和感に縛られていた。

「余計なことを話されると困るだろ?僕が犯人って特定されるから」

「そうか、よくわかった」

琥珀はそう言った直後、息遣いさえ滑り込ませる隙間も作らないような素早さで通話を切った。

「……行くぞ」

その誘い方はあまりにも軽い日常的なもので、まるで昼飯付き合えよ、とでも言うようだった。

「どこに?」

「いいから、時間が無い」

僕は気が付いた、琥珀は焦っているがそれに呑まれまいと敢えて冷淡に振る舞っているのだと。

つまり、琥珀がそれほど動揺するほどのことが起こっているのだと。

「わかった」

僕は高田さんを落ち着かせ、何が起きているのかはわかっていないまま、琥珀の言う通りに動いた。