僕はメモアプリに新しい文言を入れ、琥珀の肩に掌を置いてスマホの画面を見せた。

琥珀は既にわかっていたのか、そうでないのか、表情を一切変容させずじっとそれを見つめる。

「……琥珀くん?琥珀くん?本当に電波が悪いようですね……どうしましょうか……」

切られてはまずいだろ、僕は焦る。

もしかして混乱させてしまったのか、と思い直し僕が携帯を引っ込めようとすると、その腕を掴まれ、固定された。

琥珀はスマホの画面を身じろぎもせずただ、凝視する。

全くもって琥珀の考えが読み取れ無かった。

僕がスマホに起こした内容は、まず、事実。

高田さん曰く、xからの電話から聞こえた妙な音と、今、水樹さんとの電話口で同じ音が聞こえること。

そして、僕の推理。

多分この特徴的な衝突音は鹿威し。

だから、日本庭園、日本庭園のある店、家にいる可能性が高い。

だが、水樹さんがxである可能性は低いと思われる。

もし水樹さんがxなら親戚、それも年下の女の子を脅したことになるし、高田さんによると彼はクローン作成反対派。

クローン作成賛成派を守るような発言はしないはず。

だから僕は水樹さんはxと同じ空間にいると考えるのが妥当だと思うんだけど……。

僕は待ちきれなくなって、自分で聞いてしまった。

「あの、水樹さん今どこにいますか?」

「あ、繋がったんですね。職場ですが、それが何か?」

心の底から不思議がるような芝居っ気の無い純粋な声が電話口から流れる。

だが、職場というのはおかしいだろう。

如月総合病院に鹿威しなどなかった筈だ、これは嘘。

じゃあなぜ、水樹さんは嘘をついたのだ。

「職場にいるんですよね?じゃあ、櫻子先生をお願いします」

水樹さんは声を漏らしてちょっと笑う。

「如月先生ならとっくにお帰りになられましたよ。まさか、職場にいるかどうかを疑っているんですか?遥斗さんに聞けばわかりますよ」

「まさか」

僕をはそう笑い飛ばしたが、そこまで鋭敏に勘付かれるとは思ってもみず、内心焦っていた。

「なあ」

琥珀が恐る恐るというようにゆったりと水樹さんに呼びかける。

「はい」

「……あんたのいる場所って、もしかして」