だが琥珀は、どう切り込む心算なのだろうか。

変な言い方をして機嫌を損ねれば、即座に通話を切られ口を利いてもらえない可能性だってある。

まさかいきなり、俺の正体を知っているだろう、とか、クローン作成に関わっただろう、とか核心を突くようなことは言わまい。

「さて、茶番はここまでだ。もう気づいてると思うが、俺は橘琥珀だ。まどろっこしいのは面倒だから単刀直入に言う。クローン作成の当時の状況について、詳しく教えろ」

言ったーー!!

やったわ、コイツ!

切られるよ、馬鹿!!

そんな叫びを堪え、僕はガクンと項垂れた。

「……バレては仕方ないですね。流石です、琥珀くん。瑠璃くんもそこにいるんでしょう?」

電話口の向こうから観念したような溜息と共に、そんな言葉が流れてきて僕は首を擡げる。

取り敢えず、切られなくてよかった、ということでいいのか。

僕は琥珀の意図が全く読めず一喜一憂してばかりでいる。

「俺は大体の状況読めたんだよ。さっさと話せ」

「へえ、それは面白いですね。話してもらいましょうか」

ハラハラしながらそのやり取りに耳を欹てていると、クイクイ、と袖が引っ張られ、その方向を見ると高田さんがスマートフォンを差し出していた。

そこには、僕のと同じメモアプリに文字が起こされている。
 
「いつもの令くんと何か雰囲気違う。令くんは、こんな気障な言い回しする人じゃない」

「それは、彼が何か隠してるかもしれないってこと?」

僕がそう打ち直して彼女に渡すと、高田さんは暫くの間指をスマホの上に浮かせたまま固まって動かなくなった。

そして、赤い唇を噛み締め、眉根をぎゅうっと寄せると、泣きそうに瞳を潤ませてスマホの画面を連打する。

ついっと素っ気なく渡されたスマホの画面を目にし、僕も固まった。

「xからの電話から聞こえた音と、同じ音が聞こえるんです」

僕は一切気づいていなかったので、琥珀と水樹さんの挑発の掛け合いをかいくぐり、耳をすませる。

ポン

確かに、何かがぶつかるような、間抜けな音が聞き取れた。

これのことだろうか。

つまり、水樹さんはxと同じ場所にいる、もしくはx本人である可能性が高くなったのだ。

「……全く、口が達者ですね。降参です。話しましょう。何が知りたいですか?」

いつの間にやら水樹さんが言い負かされ、こちらが優勢になっていた。

なんて男だ、琥珀は。