姉はみかんを剥き剥き、早速食べ始めた。

「……どう?」

「ちょっと酸っぱいけど、私はこのくらいのほうが好き」

姉は片目を眩しそうに細め、上品に笑った。

「やっぱり」

天藍姉はごくんと白い喉を上下に動かし、怪訝そうな顔をする。

俺は笑いを堪えるのに必死だった。

腹筋が千切れそうだ。

「……何?毒でも入ってるの?」

「いいや。このみかん、結構いいやつでね、俺のお気に入りなんだ」

何が言いたいのよ、と目で訴えてくる。

「琥珀兄にも贈ったら全く同じこと言ってたよ」

唇周りの筋肉がゆっくり持ち上がってくるのを感じた。

「だから何よ」

刺々しい口調とは裏腹に、耳の先は赤い。

この人は遊びやすいな、と思い、瑠璃兄もこんな気持ちなのか、と勝手に想像した。

「照れてるくせに」

「うるさいわね」  

赤みが顔全体に広がり、そのまま睨みあげられたが、全くもって怖くない、というか、俺の意地悪な心を掻き立てる。

「ていうか、ずっと気になってたんだけど、あんた何で橘くんたちと知り合いなのよ」

そうか、姉にはまだ伝えてなかったか。

「あれはいつだったかな」

天藍姉のお見舞いに来て、階段登ってたら下りてくる人とぶつかったんだ。

結構な勢いで衝突したから、急いでたんだな、と思うと同時に、病院で走るなよ、なんて思っていたら

「すまない。怪我は無いか?」

低い声に乗って、大きくて長い指の手が目の前に降りてきたんだ。

大丈夫、ありがとう、といってとったその手は温かくて固かったな。

それで、その男の顔を見てびっくり。

つり上がり、冷たい光を発する瞳が印象的で、高く小ぶりな鼻、薄い唇、艶のあるさらさらの黒髪。

とんでもないイケメンだったんだからな。

「……」

俺は数秒間じっと姉を見つめてみたが、不快そうに片頬を歪めただけだった。

「……何で止まってるのよ」

「いや、イケメンって否定しないのかな、と思って」

「別に否定なんてしなくていいでしょ。事実、整った顔立ちしてんだから」

ちっ、面白くないな。

「何か言った?」

俊敏に鋭く睨みつけられた。

「何も?」