「ボウヤ、迷子?」

気遣うような声にはっとする。

腕で両目を拭いて、視線を声の主へ持っていく。

若い女の看護師が屈んで俺を心配そうに見ていた。

「あ……いえ。姉の病室はすぐなので、大丈夫です」

「しっかりしてるね。優しいいい弟を持って、お姉ちゃん幸せだろうな〜。じゃあね」

「ありがとうございます」

子供らしく、手を振って別れた。

しっかりしてて、優しくて、いい弟だって?

ふざけるんじゃない。

好いた女のために、何もできなかった情けない男だ。

姉にだって、情に訴えて、何も知らなかっとはいえ、イジメという地獄にぶち込んだ、最低の弟だ。

コンコン

「はい」

ドア越しに曇った声が聞こえた。

曇ってはいたが、きちんと芯はあり、いつもの姉の声で安心する。

自分で言うのもだが、姉はクールビューティーだと思う。

「俺」

「どうぞ」

そして、姉と俺は血縁関係が無いと推測している。

まず、容姿のタイプが違い過ぎるし、髪や目の色が違う。

幼少期から一緒に過ごしてきたからか、性格は若干似ている部分はあるが。

更に言えば、姉は母とも血が繋がっていないと思う。

母とも容姿のタイプが全然違うからだ。

母はどちらかというと今風の、アイドルのような、愛嬌のある顔立ちだが、姉はどちらかというと日本顔だ。

切れ長の瞳が特徴的で、着物が似合いそうな顔立ちなのである。

祖母によれば俺は父親似らしいので、天藍姉はこの家の人の誰とも似ていないことになる。

だから、姉は養子なのでは、というのが俺の予想だが、敢えてはっきりさせようとは思わない。

俺は姉のことを、姉として好きだから、姉がショックを受けるようなことはしたくない。

もしかしたら天藍姉はもう知っているかもしれないが、指摘されるのは嫌だろう。

「お見舞い。みかん」

「みかん!?珍しいチョイスね、夏よ、今」   

「まあ、現代は、どの時期でも、旬じゃない果物売ってるからな」

「あなたまだ10年も生きてないでしょうに」