その日から、公園で遊んだり、家に呼んで遊んだり、彼女と密接に関わるようになった。

俺の想いは日に日に高まり、遂に我慢できなくなり、俺の好意を彼女に伝えた。

最初はそれだけのつもりだったが、彼女が、「えと……ちーな達、恋人ってこと?」と赤らむ顔で言うので、そういうことにした。

しかし、彼女は頻繁に入院をした。

その度に、彼女は奇妙なことを言う。

「私は、人を不幸にするから。狂わせるから。本当は、生きてちゃいけないの。だから、生かせて貰えてるぶん、この位の仕打ちは受けないといけない」

この言葉を言うときだけ、彼女は自分のことを「私」と呼んだ。

遠くを見つめるような、成長し過ぎているような視線が、俺だけ置き去りにされたように感じて寂しかった。

そして……今年の、春。

「はるくん、あのね……」

彼女は、震える声で衝撃的な事実を話した。

ちーなね、もう、死んじゃうかも。

ちーなの心臓は、他の誰かの心臓を貰わないと、もう、持たないの。

でもね、そんなの、中々見つからない。

だから、だから……何も言えないまま、何もできないまま、死んじゃうのは嫌だから、はるくんに協力して欲しい。

俺は、叫びたいような、泣きたいような、制御のきかない猛獣が暴れるのを、必死に抑えて彼女の遺言作りを手伝った。

その中に、天藍姉へのビデオメッセージもあった。

そして、全て終わり、病室が黄昏の光に包まれた頃、彼女は言った。

はるくん、ありがとう。

このことだけじゃなくって、今までのこと全部。

大好きだよ。

俺は獣の制御ができなかった。

彼女を強く強く、抱きしめた。

「お礼を言わなきゃならないのは、俺だ。俺を助けてくれて、照らしてくれて、一緒にいてくれて、ありがとう。好きだ、大っ好きだ」

抱く彼女の肩が震える始め、額を俺の肩に、押し付けた。

濡れていく。

彼女が俺に見せた、最初で最後の涙だった。

「……死にたくないよっ、嫌だぁっ。はるくんと、天藍ちゃんと、皆とっ!まだ、一緒にいたいよぉ」

俺の目からも、生温かい雫が溢れて、頬を伝い、彼女の肩を濡らしていく。
 
二人で、泣いて、泣いて、泣いて、泣き尽くして。

逃れることのできない運命を、嘆いた。

誰も、どうすることもできない、残酷な運命。

神を、恨んだ。

そして千稲は――。

笑顔で、逝った。

あの太陽のような笑顔、俺の大好きな笑顔で。  

彼女は俺の手を取り、常時つけていたミサンガのようなヘアゴムを握らせた。

力が弱くなっている。

そして、口パクで、大好き、という形を作って、ニコッと笑って、そのまま目を瞑って、笑顔のまま、眠るように、逝った。

心に穴が空いたように、絶望を彷徨っていた。