ふんわりと花のように笑ったその表情に、どうしようもなく懐かしい感情になり、温かい。

まるで、抱きしめられているような。

次に瑠璃の顔が重なる。

……?

モヤ、と胸の中で霞がかかったように何かが隠される。

もう少しで手が届きそうなのに、触れられないという、もどかしい、この感覚。

何だ、何に俺は気づいた?

「おっ……」

ジーパンの後ろのポケットから振動が伝わり、また考え込んでいた俺は驚きの声を漏らした。

スマホを取り出すと、瑠璃からの着信であった。

「もしもしー琥珀ー?」 

「何だよ、今考え事してんだ」

「え、後のほうがいい?」

こういう鈍い所が俺を苛つかせるのだ。
 
「用件だけ言え。さっさと」

「恋藍のDNA見つけても意味無くない?」

想像の斜め上からの用件だったので俺はフリーズし、聞き返した。

「……何で?」

「だってさ、俺らの母親なのは間違いないわけで、天藍ちゃんと照合するったって本人拒否ってんだから何もできないよ」

……こいつ、意外と鋭いんだった。

俺は長めに息を吐き、脳内で絡まる事象と感情、そして仮定を一旦解き整理する。 

整った冷静な頭でないと、正確な判断は下せない。

「琥珀?」

「……俺、今、親父の部屋に侵入するのに失敗した。ただ……」

如月のことを言おうか迷った。

人の出生はデリケートで、個人によっては触れられたくない禁断の話題であるがため、瑠璃といえど、本人に伝える前に簡単に話してもよいのだろうか。

「ただ?」
 
「あ、いや、ただ、俺、盲目だったことに気づいた」

電話口から全てを悟った天使のように、柔らかに笑ったような吐息が流れてきた。

「ふふ、何だよ、それ。変なの」

「うるせぇ」

「それで?琥珀くんは何に気づいたのかな?」

幼児の機嫌を取るような口調に完全に馬鹿にしているような響きがあったが、突っかかっても面倒なのでスルーした。

「それは、如月のいるとき話す。瑠璃も、その話は無しでいい。じゃ、切るぜ」