やばい、やばい。
体中の水分という水分が汗腺から落ちもう何も出なくなった。
丁度泣いていたところに入ってくるし、あの男は全くもってタイミングが悪い。
何とか平静を装っていたものの、彼の観察力ならば気づいているだろう。
橘くんから投げかけられた問だって、質問返しをして繋いではいるが、それもいつまで持つかわからない。
何か上手い言い訳を、考えないと。
ガラッ
「やっほーー!」
異常なテンションを病院で発揮できるという最強のメンタルを持つ男が登場した。
「……」
勿論、そのテンションについていくわけもなく、彼を黙視。
「あれ、僕、何か間違えたかな」
いや、ナイスタイミングです。
珍しく。
「お前、空気読めよ……」
橘くんは両手で顔を覆い、ため息を交えて項垂れる。
「え?え?……あ、なるほどね!じゃ、僕帰るから、あとは二人でどーぞ!」
違う!
「か……帰らないで!」
橘くんの追及で動揺していた私は、まるで誘拐された子供が助けを求めるように言ってしまった。
そんなに重いものではないから、気にしないで欲しい。
「琥珀……お前何かした?」
瑠璃さんが大きな瞳を更に大きくし、今度は急激に細めて橘くんを見て言った。
「何をだよ」
「あ、いや橘くんは何もしてないですよ」
ごめんなさい、橘くん。
「ふーん。ならいいけど」
瑠璃さんも橘くんと同じように私の病床の周りに椅子を出して座った。
「ねね、新発見!」
瑠璃さんは両足を開き、その間に手を伸ばして椅子を摑み前のめりになる。
焦げた足は筋が出るほどに筋肉がつき、それは瑠璃さんが動く度にそれも微妙に動いていた。
「この前、部活の休憩時間、教室で休んでたの、炎天下だから」
確かに、蝉の鳴き声が煩わしく、窓から差し込む日差しがやけに強く明るいと思っていた。
外はきっと暑いのだろう。
「でね、クーラーが寒くって校舎内を走ってたら、」
「どんだけ走んだよ」
ほんとそれ。
「女の子二人組に声かけられたんだ。するとその子たちは卒業アルバム制作委員の子達で、今年の分を作るのに前のアルバムを参考にしたかったんだって」