大人っぽい光が前髪を突き抜ける裏側で、紫色の光がゆらゆらと不安定にゆれているようだった。

彼女の弱さが、染み出ていた。

だから、俺が。

俺が、守らないと。

「黙り込んでさ、ホントに何しに来たのよ」

呆れたような声はいつもより張りがなく、やはり少し心配である。

「だから見舞いっつてんだろ」

「あっそ」

「……」 

俺は幼少期から自分がクローンだと、複製人間だと知って生きてきた。

絶望は慣れっこだ。

しかし、如月は、突然、歩んできたレールが分岐したのだ。

絶望の深さはどれだけだっただろう。

道を見失って、迷ってはいないだろうか。

凍りつくような沈黙が続き、俺は胸に収めていた疑問を放出した。

「あのさ……お前、俺の母親知ってたろ」

如月の顔から妖しさが引き、瞳は濁っていく。

あの頃の、冷酷な、白女王。

「私は母の部屋に侵入して初めて知ったのよ。馬鹿なこと言わないで」

「だってお前、集合写真の中から俺の母親、見つけたじゃん。名前とかもかいてないのに、おかしいぜ」

「それは、あの、橘くんの家で遺影をたまたま見ちゃって……」

「悪いが、俺の家に母親の写真は一枚もねぇよ。あの親父は、母親のことを詳しく話さねぇんだ。話したくない、という感じか」

自分はどうしてもっと優しく言えないのだろう。

瑠璃みたいに、温和に優しくできたらいいのに。

こんな、人を追い詰めて白状させるようなやり方、気分悪いし嫌いなのに、これしかできない。

俺も如月も、ぐっ、と唇を噛んだ。

「仮にそうだとして、瑠璃さんのいる前で言わなかったのはなぜ?あの質問をした時点で気づいてたのよね?」

「それは、」

瑠璃と話を展開して欲しくなかったから。

近づけたくなかった、から。

なんて、言える訳ねーだろ。

俺に比べて瑠璃は柔和で親しみやすい。

出会った年数は俺のほうが昔だが、過ごした時間や親睦の深さは明らかに瑠璃のほうが上だろう。

これ以上、瑠璃と仲良くなってほしくなかった。

強かった彼女が、ずっと俺の中心近くにいて、心の支えになっているから、取られたくなかった。

幼稚な嫉妬と独占欲による、自己中心的な判断故だった。

源泉のように強く優しく、温かい言葉をくれた彼女を、失いたくないのだ。

狂った黒王子。

清い白女王。

二人の生い立ちは似ているかもしれない。

しかし、並ぶことは許されない。

俺は彼女を見捨てた。

そんな俺の想いが叶うなら、この世に神はいないのだろう。