肩にかけたバックの紐が、更に重圧を持ち、食い込んでくる。
空の両手には額に滲んだ汗とは別の種の汗が浮かんでおり、握りしめた。
廊下の壁に意味があるのか、設置されている鏡の中の自分を覗くと、夏の暑さにやられ、頬が若干火照り、汗で湿った髪は濡れ感が増していた。
あああ、来たはいいが、どうすればいい。
ドアに手をかけ、引いて悶々とし、また手をかけ、を繰り返すこと早5分。
お見舞いに来たぜ、なんて恩着せがましいし、カッコ悪い。
今までの俺なら、何も考えずにすっと、スマートに入れたのに。
恥じらいも躊躇いも無い代わり、思いやりも優しさ知らないロボットのように。
過去の自分を振り返れば、惨めになっていきドアにかけようとしていた手から力が抜け、だらんと落ちた。
すん……ひっく。
誰か、泣いている?
ドアに耳を押し付けてから俺は自分の頬をつねった。
この病室には如月しかいないから、如月に決まってるだろ馬鹿が。
「如月!!」
衝動の赴くままに病室に飛び込んだ、のだが。
「……何」
色のない、軽蔑しきったような瞳が、俺を見据えていた。
「いや……」
羞恥の熱が上ってきている。
しかし、よく見ると、前髪から隙間から見える如月の目の縁が、僅かに赤かった。
熱が引く。
あながち的外れではないようだ。
だが、ここで泣いてたのか、などと聞けば、彼女は怒るだろうし、その脆い心やプライドを傷つけて更に嫌われるだけだろう。
その理屈でいけば、きっと憐れまれるのも相当傷つくだろう。
「何しに来たの?余計な慰めは不要よ」
ほらな。
「お前の性格知ってて誰が慰めなんかにくるかよ。見舞いだよ」
できるだけ表情を崩さずに言い、如月に近づいて椅子に座った。
「遥斗ね」
「何でだよ」
半分は図星だった。
でも、俺は自ら行こうとしていたのに、それを感じ取ってもらえなかったのは俺がまだ、そういう人間に見えないからだ。
そう思うと、悔しくて、気持ちの残留感を叫んでしまいたかった。
「だって、どう考えてもそうじゃない。橘くんの性格知ってて、誰が自分からお見舞いに来ると思うのよ。瑠璃さんの提案ならあの人はついてくるだろうしね」
妖艶な微笑が、俺の心の内側に侵入してくる。
全て見透かしたような、自信たっぷりの表情。