俺は、如月と幼い頃に出会っている。

彼女は記憶に残っていないみたいだが、俺は、心の奥に、大切に大切にとってあるから、鮮明に覚えている。

昔の彼女は、やけに大人びた、それでいて安心感のある笑顔を持つ人だった。

人が欲しい言葉を、事情を詳細に説明しなくとも落ち着いた声で贈ってくれた。

――俺の命は、誰も要らない。ただの部品だったんだ。この気持ちは、君にはわからないだろ。

うん、そうだね。わからない。だから、教えて?

お前、変わった奴だな。

ん、まーね。

俺はな、作られた命なんだ。それって、どういうことか、わかるか。愛と無縁なんだ。例えばだけど、夏休みに作った工作の人形を、いつまでも可愛がるか?作られたときは大切にされても、いつかは飽きられて、終いには忘れられるんだ。

そっか。大変なんだね。

大変なんだねって……!俺は、俺でいられないんだぞ!複製なんだ、スペアなんだよ!そんなの、俺の生きる意味なんてねぇじゃねぇか!俺の人生はもう決まってんだ!!

大丈夫。君は、君だからね。嫌だったら、逃げなよ。体はスペアのままで変わらないけど、君を苦しませていた鎖は断ち切れるよ。君だけの、君自身の人生を歩めばいいじゃない。

……でも、そんなの、どこに。

見つからないなら、これから見つければいい。ただ、よく考えなよ。そのままいるなら、間違っててもいいから、自分を持っていて。君を必要としている人は、すぐ側にいるから――。


だから。


負けないで。絶対、大丈夫よ。


……君は、どうしてここに?

呪いがかけられてるから。心臓が大きくなる、こわーい呪い。

唇の下のほくろが印象的だった。

そのときの彼女の笑顔は、8才の子供から到底生まれないような哀しく、妖しい笑みだった。

……また会って話そうな。一緒に頑張ろうぜ。

俺が笑うと、彼女は先程の笑みとは違い、無邪気に笑った。

強い。

彼女を強いと思った。

しかし、彼女は白衣の大人たちに連れて行かれた。

思い出せば、病院着を着ていたような気がするので、病院から抜け出してきたのだろう。

彼女は抵抗こそしなかったものの、縋るような視線で俺を絡めとってきた。

俺は、それに気づいた。