言われなくてもそのつもりだった、とは流石に言えなかった。
また、道路で一人、赤面した。
「ねぇ、琥珀兄」
単語間が妙に間延びして、虚空を微笑しながら見つめる遥斗がリアルに思い浮かんだ。
「ありがとね」
「急にどした」
「んー?……何か、天藍姉に、芯ができたから、琥珀兄や瑠璃兄と関わるようになって」
「何だよ、それ」
「天藍姉が、幸せそうになってきたってこと。前は、人形みたいだったから」
「相変わらず冷たい表情してるじゃねぇか」
「ううん。大分、温かくなったよ。温かく清い、そう、ホットミルクみたいな、白。そう言うのが相応しい感じ」
遥斗は大人過ぎるのか、何を言っているのか理解が難しかった。
ずっと前から、年齢のスタートラインが違うかのように俺だけ遅れているような気分だ。
「苦くて、あまーい気持ちも持ってくれたみたいだしね」
嬉々とした響きを持った声が通話口から弾むように流れた。
「ハァ?何だよ、それ」
「天藍姉の白に、琥珀兄の黒が混ざって、生まれた気持ちだよ。例えるなら、カフェラテみたいな?」
また、何を言っているのかわからない。
子供特有の感性なのだろうか。
だから俺はそれを理解できないのだろうか。
「黒と白混ぜたら灰色だろ?」
「全く、琥珀兄は柔軟性がないなぁ。灰色になんか、ならないだろ、二人なら」
もう理解しようとするのは諦めた。
はっきりとした意味はわからないが、何となく、嫌な気はしなかった。
「最後に一個。輸血、ありがと。天藍姉の血液型、知ってるなら教えてくれる?」
「えっ、おまっ、知らねぇの」
「うん。本人とお母さんは知ってるんだけど、俺には頑なに教えてくんなくて。ほら、知らないかもだけど俺と天藍姉、血繋がってないから」
「……!」
知らなかった。
俺の血が、黄金の血でよかったと初めて思った。
「えっ、琥珀兄も知らないの」
「あ、いや、俺は……実は」
俺は自分の血について、説明した。
その最中に、もし橘恋藍の血液型がわかれば、如月と一致するかによってクローンかどうかわかるのに、と考えた。
「へぇー……そっか。天藍姉に聞いてみる」
その後、少しだけ言葉を交わし通話を切った。