「はい、それではまた始業式に。さようなら」
「さよならー」
如月がいない。
明日からはもう、夏休みが始まるが、あの、調査報告をした次の日から姿が見えない。
担任は体調不良と聞いているそうだが、如月の場合、そんな簡単に安心できないのだ。
俺から連絡するなり、病院や家に訪ねるなりして確かめればいいのだが、恥ずかしさがそれを阻む。
こういうプライドの高いところが、俺の考えとぶつかり、最終的にプライドが勝ってしまうのだ。
あいつが残した、最後の笑み。
わざと前髪を左右にふり、顔を見せようとしたこともあり。
何かに気づいてほしくて藻掻いているような、でもそれを自分からは言えなくて、俺が気づくのを期待しているような、意地悪な笑みに見えた。
何か、関係があるのだろうか。
俺は帰路の道中でスマホを取り出す。
冷ややかで人を寄せ付けないような俺の顔が、黒い画面に反射した。
俺は画面をタップし、スマホを耳に押し付けた。
「あ、もしもし?どしたの」
俺は遥斗に逃げた。
「あ、いや……如月が学校に来てないから……」
「あぁ、天藍姉はもういないよ」
「はぁ!?どういうことだよ!!」
思わぬ告白に俺は人目も気にせず怒鳴った。
歩きゆく人々が俺に奇異の視線を向けるのがわかる。
衝撃が大きすぎて足が地に浮いたような感覚だ。
「入院したんだよ。倒れて、夏休み中は病院生活だってさ」
「んだよ、驚かすなっつーの……」
「あは、ごめん。ちゃんと天藍姉に琥珀兄がすっごい心配してたって伝えておくから」
「別にそんなんじゃねぇし」
と、言いつつ一人で耳を熱くしていた。
俺は、こんなやり方しかできない。
クローンといえど、肉体的なものが一致しているだけで内面は周りの環境によって変化するらしい。
だが、俺は年々あの冷血な親父に似てきているのを実感し、その影を切り離そうと必死で鋏を振り回している。
でも、それは強力でいつも俺を支配し、背後にぴたりと張り付いているのだ。
瑠璃だって同じ環境で育った筈なのに、俺とは大違いで、軽薄だが素直で、太陽のように温厚な奴に育っている。
きっと母親が温厚な人だったのだろう、と俺は思う。
「天藍姉、寂しそうだから暇だったらお見舞い、瑠璃兄とよろしく!」