やっと、瑠璃さんがニコッと笑ったため、私を苦しめる蛇のような陰湿な縄も少し緩んだ。

「まあ僕もそこが引っかかってるんだよねー。外見は全くと言っていいくらい同じになるはずだから。原理的には年の違う、一卵性双生児みたいなものらしいしね。この女性が天藍ちゃんのプロトタイプにしては、彼女の目は丸く、大きすぎる。でも、それ以外が似すぎているんだ」

喉の筋肉が収縮し、ひくっと変な音をたてる。

心臓から骨を伝い、脳にまで響く心臓の鼓動がおそろしく大きい。

「なぁ、この目……こうやって、目だけ見たら、」

橘くんが大きい手のひらで女性の顔を、目以外を覆う。

びりっとした戦慄が3人の間を駆け抜けた。

粘着質な汗がスライムのようにへばりついてクーラーの冷えすぎた風が頬に痛い。

「瑠璃じゃね?」

そっくりだった。

子供のように丸い目は長い睫毛が飾られ、宝石をつめた宝箱の中身のようにキラキラと光を集め、輝く瞳。

写真のものから、その男の顔に目を向けると、驚きからだろう。

見開かれて更に大きくなった瞳は赤く細い、糸のような血管の色がくっきりと出、蛍光灯の光がゆらりと揺れていた。

「僕?似てるの?」

「ああ。自分では分かんねぇかもしんねぇが、客観的にみると激似だ」

「それに……茶髪だぜ、この女。如月は純黒髪だ。染めてる可能性も無くはないが、それにしては髪に潤いがある。少しは傷むはずだろうに」

謎が謎を生み、混乱がとぐろを巻いている。

どくどくどくと静寂が拍動を加速させる。

ダァン!

机が真っ二つに割れそうなほど強い音がして、体がびくついた。

橘くんだった。

「行き詰まったんなら仕様がねぇ。また証拠なりなんなり見つけて追い詰めたらいいだろうがよ。煮詰まったら、やめだ。今日は解散」

いつの間にか汗で額に張り付いた前髪が、凛々しい橘くんをストライプ柄にした。

「あー、そだね。んじゃ、僕は失礼しまーす」

瑠璃さんは畳の上をまるで滑っているかのような軽やかさで歩きルンルン気分の小学生のように去っていく。

「じゃあ、私も……今日はありがと」

声に覇気がなく、若干ため息混じりに言ってしまったが、許してほしい。

それだけ、気力と精神を削ったのだ。

「如月」

無視できないような芯の通った低い声。

進もうとする私の足はそれに掴まれた。

「負けんなよ。俺みたいに、なるな。お前なら絶対大丈夫だから」

クローン、のことだろう。

「ありがと。世の中に絶対なんてないから、わからないわ。でも、私は大丈夫」

「そうだな。でも、お前はそう言ってくれたぜ」

橘くんの優しさに恍惚とする。

頭を振り、少しだけ、前髪を退かしてみせた。

私は、意地悪に口の端を持ち上げた。