「バッ……そんなのありえねぇだろ!!」

橘くんが声を荒げて瑠璃さんをきっと睨みつける。

「僕の推論だ。違うかもしれない。ただ、思い当たる節があるんだ」

激高する橘くんに対し、珍しく瑠璃さんは冷静だ。

諦めているのか、もしくは自分で昂ぶる感情を抑えているのかもしれない。

「まず、疑いを深めたのが天藍ちゃんの生い立ちだ。天藍ちゃんは捨て子だとされてるが、天藍ちゃんは捨て子"らしい"と言っていた。それは、聞いた話ってこと。本当はそうではない可能性がある。僕の推理では、珊瑚が検査や相談しやすい櫻子に預けたのだと思う」

驚きで声が出なかった。

恐怖のような感情が喉の水気を奪い、塞ぐ。

「よく、覚えていましたね」

「まあ、結構ピリピリしてたし、記憶にくっきり残ってるんだ」

瑠璃さんの表情はピクリとも変化しない。

「二点目。櫻子が天藍ちゃんに言った内容。橘家に近づかないで、異常者ばかりだから、だったかな」

「事実、そうかもな」

橘くんが自虐的なことをいうので、瑠璃さんが無表情で咎めた。

「こら、琥珀。で、その理由が、クローンだとバレないようにするため、だったらどう?そのことと関わりが深い僕達が勘付くと思ったから遠ざけようとしたのかも」

走っていた感情が速度を緩め、心臓を縛っていた何かが解けたようだ。

「三点目。親父の日記だ。罪を償いたい、これはクローン作成のことだと取れる。それに僕たちが今まで辿り着けなかったのは天藍ちゃんの写真があったからだ。まさか、天藍ちゃんがクローンだなんて思わないからね」

ぎゅっ、と、また何かで縛られた。

滲み出た血が、うめき声として口から漏れてきそうで脂汗が浮かぶ。

「実は、親父の部屋を捜索したとき、女性の写真が出てきた。それが、これだ」 

私はもうついに心臓のある辺りを掴んだ。

繕う余裕などない。

クーラーで冷えた汗が私の身体をも冷やし、指先の感覚は無いに等しかった。

「唇の下のほくろや、唇の形、鼻の形など、酷似している特徴が沢山ある。恐らく、この方がプロトタイプだろう」

「でも、髪色と目元、全然違うくね?如月の目のほうが綺麗だ」

「やだー、琥珀くんってば大胆♡」

「てめ、コラ!!」