「やっぱり、天藍ちゃんって地頭いいよね。推理力も」
ニコッ、と首を傾げて微笑む瑠璃さんの様子に、久方ぶりに天使を目にして目の保養になった。
「そうですかね」
つられて私も微笑んだ。
最近の私は流されやすいような気がして、用心しなければ、と思う。
「ひゃ!」
突如、額に針を刺したような冷気が触れ、遮断していた光が急に襲ってきて目が眩む。
ドアップに橘くんの造形のような顔立ちがあり、釣り上がった瞳の鋭い光が煌めいた。
黒く艶めく髪がさらりと眉毛をなぞる。
長く細い指は、ほんのり温もりを持っていた。
「ちょ、やめて、下ろして」
橘くんに前髪を上げられ、顔を至近距離で見られているという事実に、私は青くなったり赤くなったりしなければならなかった。
どきどきどき。
どくどくどく。
「お前さぁ……誰かに似てね?」
「知らないっ。はやく戻してよ」
はら、と前髪が下り視界が暗くなってほっとする。
「んー……」
思い出されたらまずい。
「あ、そういえば瑠璃さん、母の部屋に侵入、成功しましたよ」
私は学習した、人は成長できない生き物だと。
わざとらしすぎる。
「え、ほんとに!?収穫あった?」
だがそれに気づかないのがこの男である。
「まあそれは瑠璃さんに聞いてみないとわからないことなんで、取り敢えず見てください」
私は、母の本棚に眠っていた資料をかばんから取り出し、机の上に置いた。
「これ、橘くんたちのお母様ですか」
橘恋藍のカルテだった。
本棚を漁って見つけたのだ。
家に保存されていたカルテの患者は橘恋藍を含め3人だけだった。
隠していたと捉えてまず問題ないだろう。
「橘恋藍さん、ですか」
名前の部分でどこか遠くを見つめるような虚ろな表情だった橘くんに生気が戻った。
「そうだよ。でも何でわかったの?」
「わかったっていうか……電話帳を見たとき、橘、という姓が恋藍さんともう一人、男性しかいなかったので。で、その男性の名前が珊瑚さんなのですが、これって……」
「ああ。父だ」
瑠璃さんが珍しく神妙な面持ちで頷く。
艶やかな黒髪が大きな瞳を翳らせた。
「母の部屋には結構沢山、橘恋藍さんに関する資料などがありました。手紙のようなものもあったし、一緒に写っている写真もあったので、二人は旧友だったのかもしれません」
「そうなれば、成り行きとして僕の父と天藍ちゃんのお母さんが知り合いでも不思議ではないね」