「こんにちは、お久しぶりですね」
襖を開けるとふっ、と冷気が顔を覆って夏の焼けるような日差しにやられた体の芯が落ち着いていく。
「お、おひさー」
瑠璃さんは若干肌が浅黒くなり、以前よりも精悍な感じのする青年になっていた。
「焼けましたね」
「気づいた?最近夜遊びやめてさ、部活出るようになったらめっちゃ黒くなったんだよね〜」
「何部ですか」
「陸上部」
意外だった。
でもよく考えてみれば私の家の前で水城さんと私に見せたあの速さを納得させる理由には十分だった。
「本当に全く行ってなかったからね、体力は全然なかったんだ。ま、そもそも陸上部なんてキツそうだから入りたくなかったしね」
「え、じゃあ何で陸上部に入ったんですか」
「スカウト」
漫画のような話をさらりと、こともなげに伝えてくる。
「……ええええ!え、すごいじゃないですか!足だけ速いのはそういうことか」
「ん?何か変なこといったかな?」
やば。
「いえ。勉強しましょう」
ノートを広げ、復習をする。
シャーペンでノートに文字を刻みながら、どのタイミングで、どのように調査結果を伝えようかと迷った。
「天藍ちゃん、テストどうだったの?」
私の肩に顎を乗せて尋ねてくる。
顎の重みが一点に集中しているのが妙に生々しい。
さらさらの黒髪が耳に当たってくすぐったかった。
「ああ、まあ、普通に」
「何位くらい?」
グイグイくるな、と思いつつ、渋々答える。
「1位です」
「えええええ!すごいじゃん!じゃあ琥珀は……?」
「1位だよ、この野郎。舐めんな」
襖を開けた隙間から眉根を寄せ、低く、あからさまに不機嫌な様子で顔を覗かせてたのは他でもない橘くんだった。
そして、今までで1番というくらい険しい表情で人差し指を瑠璃さんに向けて、警告。
「あとお前、如月に近づくなっての。離れろ。一回言ったことあるだろ、これ最後通告な。軟派男めが」
そのままスタスタと歩みを進め、すとん、と私の隣に腰を落とす。
「えと……どゆこと?」
瑠璃さんは橘くんの圧に押されたのか顎を上げ、目を点にして黙々と宿題をする私、机に頬杖をつき、貧乏ゆすりをする橘くんを交互に見た。
橘くんは何も言わなそうな雰囲気だったので、私はため息混じりに言った。
「同率1位だったんです」
「え……?ちなみに、何点?」
「5教科で498です」
「わ……凄いね……」
瑠璃さんがドン引きしていることを察し、慌てて無駄なフォローをぶち込む。
「怜悧高校だったらボロボロですよ、きっと」