部屋に一歩足を踏み入れただけで感じた、違和感。

ファイル類はきれいに整頓されており、夏の気温で空気もむっ、と暑い。

更に奥へと進み、部屋全体的を注意深く見回す。

いつも通り。
 
いや。

一部、ファイルの並べられている順番が違う。

それも、あの資料の詰まったあたりだけ。

暑いはずなのに、冷たい汗が背中を伝う。

ゴミ箱には大雑把に切り裂かれた紙が突っ込まれていた。

一欠片取り出してみると、そこには電話番号らしき数字が並んでいた。

これは、電話帳だ。

蓮の人脈から続いている、ノート。

……誰か侵入したのか。

取り敢えず、冷静になって考えるためにクーラーをつけようとリモコンを探していると、ふと、床に毛髪が落ちているのに気づき、拾い上げた。

たったの一本でもわかるような質のいい黒髪だった。

私の髪色じゃない。

遥斗でもない。

そこで、五人ほどに絞られた。

あの人?

あの子?

あの子?

あの子?

あの子は、違う。

この中で1番可能性が高いのは、やはり、あの子だ。

天藍だ。

侵入されるのは、これで3回目、何故懲りない。

――頼んだわよ。

大きな黒目、艶めく髪、ぽってりとした唇から流れたか細い声が罪悪感へと引きずり込んだ。
 
あの資料を見られていたとしたら、もしかして、天藍は気づいたかもしれない。

天藍は、あの子に似て頭が冴えているから。

次々と吹き出て止まらない汗が私の服を濡らし、体を冷やしていく。

人にために傷ついて、人に悩みを話せなくて、負けず嫌いで、理不尽なことがあれば黙っていることのできない、弱くて、強いところも似ているから。

きっと、まだ琥珀くんにも接近しているだろう。

クローンのことだって話したかもしれない。

悪くなっていく妄想が私の魂を吸い上げるようにしつこくつきまとってくる。

――ごめんなさい。