「クローン……って、何……?」

如月は知らないようだったので少し驚いたが、俺は感情を悟られないよう微笑して、後で詳しく出てくる、と伝えた。

それを知ったのは、忘れもしない、8歳のときだった。

俺は、物心ついたころから、あらゆる人間の好奇の目に晒され、頻繁に病院に通っていた。

そして、体のあらゆるところを隅々まで検査されたあと、心の奥底まで暴かれる。
 
心理調査みたいなものだ。
 
俺は、その検査の付添としていた、男の看護師に聞いた。

ぼくは、なんのびょうきなの?

男は言った。

病気じゃないよ。君は、特別な人間なんだ。クローンっていうんだよ。

くろーん?

それなに?

お父さんのお部屋に行けばわかるよ。

俺は父の部屋に入った。

鍵は掛かっていなかった。

そのときの父の部屋はまだ整理されており、だからこそ資料をすぐに見つけられたのだと思う。

床に落ちていた紙を何気なく手に取り、それを見ると、こう書いてあった。

【tsー2 出産成功 プロトタイプ 橘珊瑚 クローン(tsー2) 橘琥珀】

プロトタイプは、日本語で原型という意味。

そしてクローンの意味は、ギリシャ語では挿し木を意味するが、別の意味も持つ。

同じの起源を持ち、なおかつ同じ遺伝情報を持つ細胞、個体などの集団。

つまり、人間のクローンとは。

複製人間。

猿のクローンが作成されたとき、使用された体細胞核移植という、未受精卵へ体細胞核を移植する技術を応用され、俺は生まれた。
 
俺はtsー2という番号で管理される、実験動物だったのだ。

遺伝子情報が同じであれば、親父がなにかの病気になったとしても、俺の今の体格であれば臓器移植も可能だろう。

もちろん、血液型も同じなので輸血も可能だ。

俺を見物にくる人間の3分の1は俺の珍しい血液型に惹かれて来たのだった。

人のクローン作成は法律で禁止されている。
 
それでも、俺を作ったのだ。

親父は優秀だから、その遺伝子を残したかったのか、万一のための部品だったのか、はたまた興味本位で作ったのか、わからない。