「流旗知成は、特に初期はどこか浮遊感があって、芯がないような、偽っている感じがあった。笑顔の裏側が空っぽな、そんな感じ。私は自然体な橘瑠璃が好き。人の話最後まで聞かなくて、せっかちで、たまに意地悪で。でもいつも笑顔で、明るくて」

上に水を垂らしたときに滲んだ絵の具のように語尾が大きく揺れて、言葉を切った。

「……天藍ちゃんだって結構猫被ってたじゃん」

「それは、ごめんなさい。でも、違う。猫を被るのと、自分を殺すのは。だからだめなのよ」

「何で?疎まれてるなら、それを捨てるしかないじゃないか。人なんて、そう簡単に変わらないだろ」

「それは瑠璃さんと、出会ってきた人との凹凸がうまく噛み合わなかっただけ。だから」

「僕だって!!」

上擦った叫び声にぴりりとした緊張感が張った。

「僕だって……橘瑠璃でいたいよ……」

更に激しくなっている橘くんの呼吸。

それを落ち着かせようと、もう一度、ぎゅっと抱きしめた。

「でも、それは父が許さない。僕は無能だから。だから僕は、流旗知成という虚像をつくった。そうでもしないと、僕が抜け殻になっていくようだった。僕は」

「もういい」

瑠璃さんの話を遮り、切迫した叫び声のような声を出したのは、橘くんだった。

思わず、彼のウエストを抱いていた腕を緩める。

「何だよ、お前に何がわかるんだよ。お前だってスペアの癖に、俺と何が違うんだ」