……っ‼


 唇と唇が。
 重なり合う、寸前。

 私のスマホに着信が。

 驚いた反動で身体が動く。

 だから、なんとか太鳳くんから離れることが。

 そしてスマホを手に取り着信を受ける。

 相手は南風からだった。

 南風は友達とファミレスにいるらしい。
 今、窓から外を見たら雨は止んでいる。

 南風は、さっき大量に降っていた雨に私が降られなかったか心配で連絡をくれた、とのこと。

 南風の気遣いに「ありがとう、大丈夫」と言って通話を終えた。



 ……言える、わけがない。

 太鳳くんと一緒の傘に入り。
 家の鍵を忘れて太鳳くんに晴海家に入れてもらって。
 太鳳くんの服を着て。
 太鳳くんの部屋で太鳳くんと二人きり。
 そして……。
 太鳳くんと……唇が……重なり合う寸前だった……なんて……。


「ありがとう、太鳳くん。
 服は洗って、なるべく早く返すね。
 それじゃあ、おじゃましました」


 太鳳くんにそう言って。
 そそくさと太鳳くんの部屋を出た。


 その後すぐに太鳳くんの部屋のドアが開いた。


「玄関まで送ってくよ」


 ついさっき……際どい……ことがあった、からか。
 太鳳くんの表情が少しだけ気まずそうに見えた。


「ありがとう」


 そう言った私も。
 少しだけ気まずい気持ちだった。



 そんな気持ちを抱えながら。
 太鳳くんのあとをついていく。


 玄関まで、すぐ。
 そのはずなのに。

 遠い。
 そこまでたどり着くことが。


 その間。
 太鳳くんは。
 何も話してこない。

 ……触れてこない。
 ……さっきのこと……。
 その話を……。