ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-

まず向かった最初の目的地は、水着のまま遊べるという温泉テーマパーク。

最初、ネットでその言葉を目にした時は想像もつかなかったけど、調べてみると屋内屋外にあるプールで遊べて温泉にも入れる施設のようだ。

子ども用のプールには、楽しそうな遊具もあるらしくきっとみんな楽しんでくれるだろう。

私と楓摩も温泉に入ることができるし、うってつけのスポットだと思った。

今日は、ここで遊んで旅館の温泉を楽しみ、明日は遊園地でいっぱい遊ぶ予定だ。

夢のような予定に胸がドキドキする。

目的地まではあと20分程。

子どもたちは、最初はDVDを見ていたものの、飽きたのかいつの間にかみんな寝てしまっていた。

早くつかないかなあ

わくわくが止まらない。
「ついたよー」

子どもたちに声をかけて起こしていく。

朝の寝起きは悪いくせに、こういう時はみんなすぐ起きる。

葉月はパチッと目を開けるとまだ少し眠そうな望笑夏を起こして、手を繋いで車を降りる。

逆側から降りた柚月と手を繋ぎ反対側のみんなと合流する。

「わあ!ここなに?ホテル?」

はしゃいで今にも走り出していきそうな葉月を楓摩がしっかりと手を繋ぐ。

「ううん、プールだよ。みんなで遊べる所。」

そう楓摩が説明したのを聞いて望笑夏も柚月もテンションが上がる。

望笑夏もまた葉月と同様に走り出していきそうだ。

「ママ、プール深い?」

怖いもの知らずの2人と逆に、柚月は臆病な所があるから少し怖いのかな?

「大丈夫だよ。深かったとしても浮き輪もあるし、ママたちが一緒に入るから大丈夫。」

そう言うと、安心したのか柚月はにっこりと微笑む。

館内に入り、入場料も払ってから葉月と望笑夏が早く行きたいと騒ぐので、そのまま更衣室へ向かう。

葉月は学校のプール学習などである程度慣れているものの、望笑夏は保育園や公園の浅いプール以外は初めてだ。
事前に買っておいた水着を取り出して葉月に渡す。

葉月はもう自分で着れるが望笑夏はまだ難しいようなので私がサポートをして水着を着させる。

「ねえ!まま!ここのプールおおきい?いっぱいある?」

興奮気味に話す望笑夏は動くせいでうまく水着を着せられない。

「それはどうかな~、早く行きたいならちゃんと水着着るよ~」

そう声をかけながら水着を着せていると「できた!」と葉月の声。

みると、前後反対に水着を着ている。

なのに気付かずドヤ顔で1人で着れたことを自慢する葉月がおかしくて笑ってしまう。

「はづ、それ反対だよ?」

笑いながらそう言うと、葉月は急いで後ろ前をなおして着直す。

「できた!」

今度こそちゃんと着れた葉月の頭を撫でる。

「上手!じゃあのえちゃんの水着着せるからちょっとまっててね。」

「はーい!」
「ゆづ、はいこれ水着。着方わかる?」

朱鳥、葉月、望笑夏の女子チームと別れてから、柚月と2人で更衣室へ向かう。

この日のために!と朱鳥が張り切って準備して買っておいた水着を柚月に渡す。

「ゆづ、自分で着れるよ」

頼もしい言葉を貰って柚月に水着を渡す。

まあ、海パンなので着るのはさほど難しくはないだろう。

柚月を見守りつつ、俺も服を脱いで水着に着替える。

さっさと着替え終わって、脱いだ服をロッカーにしまっていると、柚月に海パンの裾を引っ張られた。

「ん?どうした?」

「……ひも」

ああ、海パンの紐が結べないのか。

まあ、まだこの歳だと難しいよな。

「りょーかい」

大人サイズよりも全然小さい海パンの紐を結んでやる。

一応持ってきた水泳ゴーグルを首から下げ、柚月にも子ども用のを渡した。

柚月がゴーグルを首に下げている間に、柚月の服も畳んでロッカーにしまう。

ちょうど片付け終わったところで、柚月も上手くできたようだ。

いつもよりわくわくして楽しそうな柚月と手を繋ぎ更衣室を出た。
更衣室を出ると、ちょうどいいタイミングで朱鳥たちも出てきて鉢合わせした。

「お!タイミングぴったり!」

そう嬉しそうにいう朱鳥の水着姿が可愛くて、思わずドキッとする。

子どもたちの水着姿も可愛いんだけど、そういう可愛さじゃなくて、なんというか…

「楓摩、見惚れてんの?」

っ……

顔に出てたか?

図星をつかれ、ギクッとする。

なんて言い訳をしようか迷っていると、朱鳥のクスッと笑う声が聞こえた。

「なーんてね。うそうそ、からかっただけだよ。」

朱鳥はそうふざけたように言うけど、俺の心臓はバクバクだった。

変な汗が出そうになるのを抑えて、笑って誤魔化す。

「もちろん、みんな水着似合ってて可愛いよ。さ、早く遊びに行こうか。」
「うわあ!!」

「ひろーい!!」

子どもたちの目が輝いている。

目の前には人口の波が出るプールと、大きな流れるプール。

ウォータースライダーもあるし、脇の方には子どもプールと更にほかのプールに繋がる通路。

これなら一日中飽きなさそうだ。

「じゃあまずどこ行く?」

そう聞くと

「波のやつ!!!」

「のえちゃんすべり台がいいー!!」

「ぼく、こわくないやつ…」

見事に意見が割れたな。

「そしたら、じゃんけんで勝った人のとこ先行くのはどう?」

朱鳥のその意見に子どもたちも俺も大賛成。

「よし、じゃあじゃんけんするか!せーのっ」

じゃんけんぽん

の掛け声で手を出す3人。

「わーい!!勝った!!」

最初に勝ったのは、どうやら葉月のようだ。

「じゃあ次、のえちゃんのでいいよ。」

そう言って妹に順番を譲ってあげる優しい柚月。

「ほんと!やったー!のえが2番!!」

「よかったねー。じゃあ最初、葉月の行きたい波のプール行こっか!」

「「「うん!!」」」
「はー、さすがに疲れた…」

「ふふ、お疲れ様。楓摩、ずっと泳ぎっぱなしだったもんね。」

足のつかないプールを怖がる柚月と、キッズプールを中心に遊ぶ望笑夏の見守りでほとんど足の着く深さのプールで遊んでいた私と逆に、葉月はずっと楓摩と泳ぎっぱなし。

楓摩は葉月の要求にこたえて、浮き輪を泳いで引っ張ったり、葉月の泳ぎの練習に付き合ったりしていた。

「何年ぶりに泳いだかな…、普段使わない筋肉ばっかり使ったから、明日筋肉痛になりそうだよ。」

「そうだよね。じゃあ、今日は温泉につかってゆっくり体休めなきゃ、だね。」

「うん。温泉、たのしみだなー」

子どもたちは、プールで遊び疲れたようで、ホテルに向かう車の中、ぐっすり眠っている。

普段あまり、家族で出かけることが多くないのも相まって、今日は朝からずっといつもよりテンションの高いみんなだったから、さすがに疲れたんだろうな、と微笑ましく感じた。

それと同時に心にこみ上げる、暖かい何かを感じて、つい口からこぼれた。

「なんかさ、夢に見た幸せな家族像って、これだろうなって感じる。」

「どうしたの、急に改まって。」

「ん?…なんかね、子どもたちの寝顔とか、こうやって楓摩と話す時間とか、本当に昔の自分じゃ想像もできなかったくらいに幸せでさ、ありがたいなあって思って。」

そういうと、楓摩は少し驚いた顔をした。

それから、今度はいつにも増して優しいほほえみを浮かべた。

「ありがたいのは、俺のほうこそだよ。俺こそ、幸せすぎるくらいの時間を朱鳥と子どもたちにもらってる。それに、朱鳥が頑張ってくれたから、今ここに子どもたちはいるわけだし、普段の生活も何一つ不自由なく送れてる。いつもありがとう。」
普段なら照れくさかったり、なかなか言う機会も無く言えない言葉も今日は何だかお互いに伝えられた。

そのまま和気あいあいとした雰囲気で楓摩とお喋りをしていると、距離だけでは遠く感じていたホテルにもすぐ到着してしまった。

一度、エントランスの前に車を停め子どもたちと荷物を降ろすことになり、後部座席で眠る子どもたちに声をかける。

「ゆづー、はづー、のえかー、着いたよー。起きてー。」

そう言うと、一番初めに柚月が眠たげに目を覚まし、声をかけただけでは起きない横に座る葉月と望笑夏を起こしてくれる。

「はづ、のえちゃんおきて。ついたって。」

そう柚月が声掛けをしてくれている間に、楓摩が入口前に車を回すと、中からホテルの従業員さんが出てきた。

私が車を降りると、とても丁寧な挨拶をしてくれて、さらに部屋に荷物を運ぶ台車も持ってきてくれた。

とりあえず、子どもたちのことは柚月に任せて、後部座席のドアを開ける。

私はトランクから荷物を取り出そうと車の後ろに向かうと、運転席から楓摩が降りてきた。

「荷物は重いから俺がやるよ。朱鳥は子どもたち降りるの手伝ってあげて。」

その些細な気遣いにまた嬉しくなりつつ、私は頷いて柚月たちの元へ向かった。
「うわあ、広いお部屋~」

車を停めてきた楓摩と合流し、ついに今日宿泊する部屋に到着。

ドアを開けると、窓から海が見える和室のお部屋が広がっていた。

「あ!おまんじゅうある!!」

「ママー、これなにー?」

「パパ、荷物どこおく?」

部屋にはしゃぐ女子二人と、冷静に荷物の置き場を考えてくれる柚月。

微笑ましく思いながら、とりあえずは柚月の言う通り荷物をまとめることにした。

「葉月と望笑夏も手伝ってー。」

そう言えば、二人も元気に返事をして部屋の入口に集まってくれる。

「柚月は飲み物冷蔵庫に閉まってもらっていい?葉月は望笑夏と二人で部屋の中に荷物運んでねー。」

子どもたちには小さい荷物を優先して渡して、私は重い荷物を持っていこうかな。

そう思って、一番大きい鞄を持って立った途端……

フラッ

「危ないっ!!」

立ちくらみか、一瞬クラっときて倒れそうになった所を間一髪、楓摩が受け止めてくれる。

「朱鳥、大丈夫?…いっぱい動いたから疲れちゃったかな。荷物運ぶのは俺がやるから、一回中入ろう?」

そう言って、楓摩は私を支え部屋に入り、そのまま一度畳に私を寝かせくれる。

「貧血かな、少し、診察してもいい?」

せっかく、こんな所に来たのにまたこれか……

自分の体の弱さにガッカリしつつも、小さく頷いた。

楓摩は、一応を考えて持ってきていたのか、自分の鞄の中から聴診器や体温計を取り出して診察の準備を進める。

大袈裟だな、なんて少し思ったけど、楓摩は私のためを思ってやってくれているんだろうし、何かあってからじゃ遅いから……

そう少し切ない気持ちになっていると、準備を終えた楓摩と目が合った。

「朱鳥?」

そう言うと、楓摩は一度手に持っていた聴診器を机に置いて、その大きな手を私の頭に置いた。

「ごめんね、こんな所でまで診察、嫌だよね…。」

顔に出ていたのか、と思って少し恥ずかしく思いつつも、まあ図星ではあるので私はコクリと頷きを返す。

すると、楓摩は穏やかな笑みを浮かべて私の頭を撫でた。

「一応、だからね。気にやまなくていいよ。」

私のために、診察してくれるのに、それを嫌に思う私の心まで察してくれて……

「…ありがとう」

そう言うと、楓摩は笑って「どういたしまして」とまた頭を撫でてくれた。