「……お前、本当わかんねえ」



小さくつぶやいて体を起こした絢斗くんは、私のてを引いて起こしてくれた。


……ああもう、また嫌われたかもしれない。


臆病で、面倒くさくて、ずるい私なんて知られたくないのに。



そのまま特に話すこともなくて、ふたりで並んでテレビを見たり、スマホをいじったりして。




「絢斗くん、ペン借りてもいい?」

「いーよ、そこの引き出し」



そう言われて、指さされた引き出しを開けて、ペンを取って。

引き出しの中にあるものを見つけて、思わず手を止めた。




「これ……」



それは1冊の本。見覚えのあるその表紙に、思わず頬が緩む。


『雨空のしたで』


私の大好きな本で、私が絢斗くんを好きになったきっかけの本だ。


毎日が嫌になった男の子が、1人で逃避行をする話。

全然有名な本ではないし、少し子供向けの本だけれど、嫌なことからは逃げてもいいんだよって、世界はちゃんと美しいんだよって教えてくれるこの本は私の宝物だ。