「なにも、ないよ」
絢斗くんの目は見ないまま、でもはっきりと答える。
なにもない。絢斗くんに知られてもいいことは、何もない。
絢斗くんはしばらく私を見ていたけれど、はあ、とため息をついて視線を外した。
「お前って俺に何も教えないよな」
「え……」
「まあいーけど」
諦めたようなその言葉に、胸がズキンと痛む。
だって絢斗くんには知られたくない。
私だって思い出したくない。
絢斗くんには、私の汚い部分なんてひとつも見てほしくない。
だって絢斗くんは私とは釣り合わないくらい素敵な人で、その差はきっと埋まらなくて、だったら少しでも絢斗くんに近づくために、嫌わせる要素なんてあっちゃいけないんだよ。