突然のことだというのに全く驚きもせずに、私が部屋から出た後を逃がすものかと追いかけてくる侍女がやれやれと私に向かって首を振る。



「ローズベリア様、流石にお早いかと」


「いいじゃない、あんな人に時間を費やすのは勿体ないもの。お父様も本当に見る目がないのよね。まったく……嫌になっちゃうわ」


「旦那様に今回は何とご報告されるおつもりで?」


「自慢話が長いから嫌だった、それだけよ」




そうキッパリ言い放つと、私専属の侍女のキーナは長い重たいため息をつくが、私は知らんこっちゃないと軽い足取りで自室へと戻る。


これで私の記憶の中にある限りの数字では、通算二十五回目の縁談破棄になる。


成人を迎えたのをきっかけにここ最近の縁談話は、てんこ盛りになってきてはいるがどれも私個人の意見として全てお断りしている。


お父様がうるうるとした瞳をこちらに向けてきても、そんなのどうってこともない。


我がエクルストン家は伯爵の爵位を持つ名のある家系であるということは、幼い頃から耳にタコが出来そうなくらい言われ続けてきたこと。


私自身がエクルストン家の令嬢である自覚を持ち、その名に恥じぬような行いをするようにと、散々お父様にせがまれては来たがこれに関しては話が別であろう。


こんな娘の結婚一つで伯爵家が傾くようであったら、領地を納める者としての威厳はないと等しい。